第36章 【義兄の突撃】
「いきなり出来たって。」
2年の矢巾に聞きつけられてしまった。
「何でもねーよ。」
「いやもう時すでに遅しです。」
矢巾は苦笑してもっと聞かせろと言わんばかりに後ろで待機している野郎共を指差した。
「これ以上は言わねーぞっ。」
岩泉は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「6番の妹にクソ川と一緒にされそうだしあそこの兄貴にクレーム食らうのもごめんだっ。」
野郎どもはなーんだと一旦諦め岩泉がホッとしたのもつかの間
「ばかやろーどもっ、直接盗み聞きにいくなあああああああっ。」
だが岩泉は華麗にスルーされ、監督らの目が届いていないことをいいことに入れ替わり立ち代わり好奇心旺盛な一派がコソコソと自分らの主将とその後輩、及びおまけでくっついてきた注目の地味メンの話を立ち聞きする。
「やっと話わかった、及川がたまに美沙ちゃん言ってるのあいつの妹だったんだ。」
花巻が言う。
「てか聞き間違いかな、義理の妹って。」
松川がうわぁという風に言う。
「何なんです、その重そうな事情。」
金田一が呟き、次に矢巾が義理の妹ねえと続ける。
「あの6番がシスコンなのそれあるかもな。」
「親が気の毒ですよ、妹を貰ってきたのに息子はそれを嫁認定しちゃってるなんて。」
「お前どうでもいいとか言ってたんじゃないのか国見。」
「嫌でも耳に入ってくるってあるだろ。」
「おおお、更に気になるな。」
花巻が勝手に盛り上がりだしたところで
「おめーらもういい加減にしろっ。つかクソ川もいつまで駄弁ってんだっ。」
カンカンになった岩泉が怒鳴り、野郎共は一部つまらなさそうにしている奴もいたが練習に戻る。そして岩泉はズンズンと及川の元へ行き、頭突き一発、首の後ろをひっつかむ。
「ホントにすみません。」
さすがに他の奴らまで首を突っ込んでくるとは思わなかったのだろう、しょんぼりとして言う縁下力に岩泉はうっと唸った。
「お前ら兄妹揃ってその顔つきやめろ、胸が痛む。」
「え。」
怪訝な顔をする力に岩泉は何でもねーといって岩ちゃん痛いと喚く及川を黙らせ引きずっていった。
そのまま力と影山は青城の練習を覗いていた訳だが、普段存在を忘れられやすい力は今回に限りチラチラ見られている気がしてしょうがなかった。