第36章 【義兄の突撃】
だいたい妙な事は思わぬ時に突然起こるのだが今回は縁下力が自ら起こしたと言える。
その日、後輩の影山が青葉城西の敵情視察をしたいと言い出した。中学の先輩他知ってる奴らのその後の様子を見たいのはわかるので澤村は了承した。が、
「俺も行っていいかな。」
力の発言で烏野高校男子排球部の空気が一瞬凍った。谷地と山口は2人してガクガク震えだした。田中はマジですかと衝撃的な顔、菅原は苦笑、東峰は例によって青ざめる。何も考えていない日向と西谷は飛ばして清水はいつもの無表情、月島はもうマジの病気だよねと呟き、澤村はじゃあ付き添い頼んだぞと言ってはいるが笑顔がこわばっている。
影山は多少驚いたようだがやはり何も考えていなかった。
「別にいいスけど、縁下さんが珍しいですね。」
「俺だってたまには敵情視察くらいしてもいいかなって。」
それは別に嘘ではない。しかし力が言った瞬間後ろから野次が飛んだ。
「嘘つけー。」
木下である。
「及川さんについでに文句言うつもりだろ。」
成田が続く。
「シスコーン。」
「過保護ー。」
「魔王ー。」
「末期症状ー。」
木下、成田に交互に言われてはたまらない。
「もうお前らよせよっ。行こうか、影山。」
「ウス。」
散々に野次られながらでかけ、気負って怖いオーラを発してしまっている影山をなだめながら青葉城西高校に辿り着き、何とか影山付きでしれっと周りに溶け込みながら男子バレーボール部が練習している体育館に着くと及川に出迎えられてしまった。
「あれー縁下君、めっずらしー、いがーい。」
「こんにちは、こないだは美沙が本当にお世話になりました、ありがとうございます。今日はただの付き添いなんで気にしないでください。」
「あーそっちこそ気にしないで。災難だったね、可哀想に。おにーちゃんも大変だ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「あいつ及川さんと何かあったんすか。」
影山が首をかしげるが力は影山に気にしなくていいよと微笑んでごまかし、及川も察して合わせる。
「にしても飛雄、お前今度は先輩まで巻き込んじゃって。まあ好きにしなよ、どうせ見たところで大したこと出来ないんだしさっ。」
影山がヒクヒクしだすが力はこそっと言ってやる。
「正面から受け取るなよ、思う壺にハマる。」
及川は何故か楽しそうにふっふーんと言う。
