第35章 【外伝 及川のブックマーク】
青葉城西高校にて及川徹はスマホで動画視聴サービスにアクセスしていた。
とある投稿者の一覧に表示された動画の概要を上から順に眺めながらため息をつく。
そこへ何やってんだと思った幼馴染の岩泉一が及川に近づき、覗くつもりはなくたまたま見えた画面におい、と声をあげた。
「ままコてそのハンドルネーム、あの烏野6番の妹じゃねえか。何動画サイトでまで追っかけてんだよ、気持ち悪ぃ。」
及川が見ている動画の投稿者ままコの中の人は本名が縁下美沙、ライバル校である烏野高校男子排球部背番号6番縁下力の妹だ。といっても身寄りがなくなり引き取られた為に実際は力とは義兄妹で更には自分で描いた絵を動画にして投稿する趣味を持つなかなか混沌とした人物である。
その縁下美沙を及川は最近やたら気にしていて、岩泉からすれば今まで及川の気をひいたのとはタイプがあまりに違う為不思議で仕方ない。
及川が一度美沙本人に言ったところによれば、
「ツンデレなところ、何気に天然ボケなところ、物言いが面白いところ、尽くしてくれそうなとこが何かいい。」
ということだがそれでも岩泉は及川がトチ狂ったと思っていた。
さて、その及川だが先の岩泉の罵倒を流した。
「ねえ岩ちゃん。」
「あ。」
「この子何で動画作ってんのかな。」
「いきなり何だおめぇは。そら好きだからに決まってんだろ。」
及川はうん、と言ってから続ける。
「でもさすんごい再生数少なくてコメントも殆どなくて、あ、これなんかひどいな、下手くそってコメントされてる。なのに月一ペースでアップしてるんだよ、何でなんだろ。」
「オタクの考えなんざわかるか。」
岩泉は面倒くさそうに言う。及川は再びうん、と呟いて考え込んだ。
「こういう事する子俺も初めてだから細かい事は全然わかんないけど自分で絵を描いてしかも手え入れて動画にするのってきっと大変だと思うんだよね。そんだけ頑張ってもさ、もっと上手い奴らがいっぱいいて自分のなんか見てもらえないのに何で美沙ちゃんは作るのやめないんだろ。」
及川は一旦言葉を切り、そのまましばらく2人は沈黙する。
「作る系オタクのことは確かにわかんねーけどよ」
ふと岩泉が言った。