第33章 【美術館】
「いや、この人は」
ここで美沙が正直に言いかけるが、
「そうです。」
力は強引に遮って笑顔で答えた。美沙は何か言いたそうに力の顔を見たり横に目をそらしたりしてキョロキョロするが力は取り合うつもりがない。
「可愛いでしょ。」
更に力は笑顔でしれっと言ったので美沙が慌てる。
「ちょ、何を。私別にっ、ふ、普通やもん。」
老女はクスクスと笑った。美沙はうっかり関西弁で喋ったが逆にそれが自然でよろしいという印象を与えたようだ。
「仲がいいのね。」
美沙はここではまともににっこり笑い、はい、ありがとうございます、と返す。
そうして老女はしばし兄妹と言葉を交わし、大変満足そうに去っていった。老女が去ってから美沙が尋ねた。
「兄さん、何で。」
「下手に兄妹ですって言ったら混乱させるだけだよ。良さそうな方だったじゃないか、困らせたくないだろ。」
「うん。」
美沙は頷く。
「さて、この後どうしようか。」
「そこのお庭見たい。」
この美術館にはそういえば庭もあって来訪者が散歩出来る道が作られていた。
「いいよ、行こうか。」
力は美沙を連れて歩きだした。やはり妹の手を握ったままだった。
庭は日本庭園で、季節の花が咲いていた。美沙は花を見ては止まり、流れる水を眺め、置かれた彫刻に見とれたりするのでなかなか進まない。しかし力は他の観覧者の邪魔にならない程度に好きにさせてやった。外でここまで楽しそうにする義妹の姿が新鮮だった。
そうして兄妹は帰路につく。
「兄さん、」
夕暮れの道を歩きながら美沙が言った。
「うん。」
「また行こね。」
「そうだな。」
力は微笑んだ。