第33章 【美術館】
そして後日、部活の時である。
「力ー、今度の休み遊びにいかねーか。」
「ごめん西谷、予定入ってるんだ。」
「ぬわんだとぉっ、縁下に予定だぁぁぁっ。何だ彼女かっいつの間にっ。」
「田中うるさいそれに彼女じゃない。」
力は田中に冷たく言う。
「じゃーなんだよ。」
「美沙と出かけるだけだよ。」
「出た。」
成田と木下が同時にため息をつき菅原がへー、と口を挟む。
「あの子も外出るんだな。」
「何でも美術館で見たい展覧会があるらしくて。」
「また渋い趣味だな。」
菅原は言う。
「ええ、俺も意外でした。」
「でもなんか良いな、お前らに似合ってる。」
「そうですかね。」
「楽しんでこいよ。」
「ありがとうございます。」
先輩に礼を言いさて、と力は呟いた。
「木下、成田、出たってどういう意味だ。」
指名された2人はギクーッとする。
「いやその」
木下がモゴモゴいい、成田が若干開き直った感じで呟いた。
「そのままだよ。流れからして妹さんの名前が出てきそうだなって。」
そして成田は聞き捨てならない事を付け加えた。
「まあ大丈夫か。知らない人から見たらカレカノのデートにしか見えないと思うし。」
「成田、最近どうしたんだ。」
「お前を止める人材もいるかなって。」
ニッと笑う成田に言われてはさすがの力も沈黙するしかなかった。
更に出かける当日の話である。
「美沙ー、支度出来たかい。」
力は義妹の部屋のドアをノックする。
「出来たよ、今出る。」
ほどなく着替えた義妹が部屋から出てきた。普段見ることのないよそ行きの服、ハンドバッグ、そして肩にはガジェットケースである。
「それは外さないんだな。」
力はガジェットケースを見て苦笑するがよく見ればそれがいつもと違うことに気づく。いつも美沙が下げているのは亡くなった祖母に作ってもらったという布製の奴だが今回は合皮が籠みたいに編まれたおしゃれなものだった。
「あれ、いつもと違う。」
「これはお出かけ用。」
美沙はキリッという音がしそうな顔で言う。
「使い分けてたのか。」
「うん。もう一つ、白いのがある。」
なるほどと力は再び苦笑する。
「その程度の洒落っ気はあったのか。」
「兄さん、そらないで。」
「ファッションにろくに興味持たない奴がよく言うよ。」