第33章 【美術館】
久々に休日で部活もない日が出来た。シスコンと言われるレベルで義妹の面倒を見ている力だが実は意外と義妹とゆっくり休日を過ごしている事が少ない。なので今回の休みについては美沙と過ごそうと思い立った。
完全インドアの義妹なので家から出ないかもしれないが逆にその場合はシスコンだの危ない兄貴だの言われる心配をせずに美沙を愛でられるということでもある。
ともあれまずは当の本人の希望を聞いてやろうと思い、力が義妹の部屋を訪れると意外な話を持ち出された。
「美術館行きたい。」
「え。」
力はキョトンとした。まさかこの出不精動画投稿者の口から外出したいという希望が出るとは思わなかったのだ。
「美術館て」
「良い展覧会来てるねん。」
「どんなの。」
力が聞くと美沙はパソコンの画面を指差す。覗き込むとブラウザにはとある美術館のウェブサイトが表示されている。
「ターナーか。」
「これは外せへんやろ。」
水彩画で有名な巨匠とあれば確かに外せないのはわかるがスマホや動画制作以外でこんなに目をキラキラさせる義妹は初めて見る。
「漫画絵とは言え自分で描くくらいだから絵は好きだと思っていたけど意外だな。」
力は言った。
「私、結構行くよ。ばあちゃんもたまに連れてってくれはったし。」
「ふぅん。」
義妹は若干不安そうにあかんの、と尋ねる。
「全然。」
力は言った。
「よし、一緒にこれ行こう。」
義妹がにっこり笑ってうん、と言い、力は若干行き過ぎの兄の欲目でそれを可愛いと思った。
「あの、兄さん。」
義妹が疑問形で言ったが力はスルーして後ろから義妹を抱きしめる。最近力には遠慮する気がない。両親の事を思うと少し罪悪感があるがどうしてもこの義妹を手放したくないという気持ちが止まらないのだ。いいじゃないか、と力は自分に言い訳した。兄貴が妹を可愛がって何が悪い。