第31章 【何度でも言う】
力はうなだれていた。義妹の前では強がってあまり騒がなかったが直接当人にダメージがいったショックがでかい。義妹は兄さんは悪くないと言うだろうけどそういう問題じゃねえよと思う。大事な妹が傷を負ったことを悔やまないでいられるほど自分は強くない。眠ってしまった義妹を見て急に不安になった。
こいつが危害を加えられ続けた結果いなくなったらどうしよう。
力は部屋のドアに目をやり、親の気配がないことを確かめ、眠っている義妹の上半身を起こしてもう一度抱き締める。こんなことをするくらい入れ込むから今まで考えなかった事が起きるのだろうが今更どうしようもない。入れ込むのをやめることもできない。
「いい子だね。」
何も考えず眠り続ける義妹の頭をなでなでしながら力は呟いた。帰ったら本人があかんと騒ぐくらい愛でようと思っていたが寝てしまってはそうもいかない。
「いなくなるなよ。」
力はしばらく繰り返した。
「どこにも行くなよ、絶対だぞ。」
何度でも言うそれは義妹に対してより自分に対する呪(まじな)いのようなものだった。
美沙はその間も目を覚まさなかった。
次章に続く