第31章 【何度でも言う】
「図書室。」
力は呟いた。
「図書室で勉強してる奴は普通にいるからおかしくないよな。」
美沙は危うくそれじゃ動画作る時間ないと言いそうになったが我慢した。自分の体とどっちが大事だと言われるのが目に見えている。代わりに言った。
「せやけど私があんまり遅いとお母さんがそれこそ心配するんちゃう。」
「先に話通しとけばいい。」
「いやあの」
どんどん話がおかしくなっていく気がする。
「じゃあそういうことで。」
「ちょっ、兄さんっ。」
美沙は抱っこされたまま声を上げるが力が引かない様子はいつだったか踊ってみた動画に出演させられ編集までさせられた時と似ている。
「ああ、そうだそれ以前に。」
ふと力は言った。
「1人で人気のないとこには行くなよ。」
「わ、わかった。」
それはもっともな指摘である。が、
「で、部活終わったら迎えに行くから。」
「そっちは諦めへん訳っ。」
美沙は突っ込む。
「兄さん、それまたシスコンとか重症患者とか言われるで。ほんまどないしたん。」
「お前だってブラコンって言われてるぞ。」
「誰や言うたんっ。」
「成田。」
「ひどすぐるっ。」
「どのみちもう遅い、現にこうやって抱っこされたままなの誰だ。」
「いやそれにしたって」
それなりに抵抗する美沙に力はため息をついて言った。
「しょうがないな、じゃあこっちが終わったら連絡するからお前が来て。後、毎日は流石に可哀想だから2日くらいは普通にするか。タイミングは都度適当に。」
美沙はそれで手を打った。はたから見ればあまり良い条件には見えないだろうがここはもう妥協しないと話が終わらないと思った。力は満足したらしく美沙を離し、しかしペタンと伏せるその頭を動物か何かにするように撫でる。
「サイコロでも振って図書室行かへん日決めるわ。」
再びベッドでコロコロしながら美沙は言った。
「サイコロなんて持ってたのか。」
「スマホアプリ。」
「流石だな。」
力は苦笑する。
「それじゃ、頼むぞ。いなくなったら困るんだから。」
兄さんはずっこいと美沙は思った。そんな風に微笑んで言われたら言うことを聞くしかなくなってしまう。あい、とまた子音がぶっ飛んだ返事をして疲れていた美沙はそのまま眠ってしまった。