第31章 【何度でも言う】
「兄さんそれは」
人の事を言えるのかと美沙は言いかけたが言ってはいけない気がしてやめる。
「それでも先母さんにちゃんと言ってくれてたからホッとしたよ。」
「下手に隠すと後が怖そーやから。」
美沙は何の気なしに言ったが義兄の勘の良さは異常だった。
「それはお前の言葉なの。」
ここで言葉に詰まるのが美沙の美沙たる所以かもしれない。
「うちのバレー部の奴じゃない、お前の交友関係はいい悪い置いといてしれてる。さては。」
美沙は顔から血の気が引く心持ちがした。
「今回は助かったからいいや。」
美沙は安堵のため息、しかし義兄は聞き捨てならないことを呟く。
「1人にしておきたくないな、やっぱり。」
嫌な予感がした。
「兄さん、体育館に留め置くんはもうかんにんして。流石に恥ずかしいしええ加減武田先生とコーチの人と澤村先輩に怒られそう。あと月島がアホの子って言うてくるのかなん(かなわない)。」
「最後が余計だよ。まあ大地さんと武田先生はともかく烏養さんは確かにヤバイな、どこにしようか。」
「しもた、そもそも留め置かんでもって言うべきやった。」
「何か言ったかい。」
美沙は何もないと呟くが今度は違う意味で困ったことになったと思う。
「部室。」
「兄さんどないしたん落ち着いて、余計怒られると思うで。あと他の部の目が怖い。」
「うーん、うちの部で怒る人はいないと思うけど他の部に何か言われるのは確かにまずいな。」
義兄は変な方向で真面目に考えてしまっている。美沙はこれはあかんと思った。
「やっぱり私はとっとと帰った方がええって悪目立ちするし、今かて兄さんに連絡入れてるし、な、な。」
どっかで妥協点を作らないとまずいと美沙はダメ元で口にしたがやはり力は納得しない。今回の件は義兄の過保護のせいかもしれないと岩泉に言われた事が蘇る。そっちについてはこの半分ボケはあまり意味がわかっていない。それより自分のせいでこれ以上義兄が何か言われたらどうするという方向を考えていた。