第28章 【アイドル】
「美沙。」
着替え終わったらしき義兄に声をかけられて美沙はビクッとした。
「何そんなにびっくりしてるの。」
「別に。なんもない。」
自分でも素っ気ないなと思いながらも美沙は言った。力はふぅんとだけ言ったが様子がおかしいことに気づかれている気がした。
暗くなった道を義兄妹が歩く。いつもはわりと会話する2人だが今日は静かだ。美沙はまだ考えていた。人気アイドルやってる人と自分なぞを比べてみても仕方がないがやはり今横にいる義兄が自分を過保護にする理由がわからなかった。自分はこの人の優しさと意外に強いところに惹かれて兄として敬愛しているが自分にはその保護を受けるほどの価値があるのか自信がない。
「何で。」
思わず声に出ていた。
「急にどうした。」
力に言われて美沙はハッとする。
「なんもない。」
「嘘吐くなよ、下手な癖に。」
身も蓋もなく言われた。
「さっきからずっと考え込んでるけどどうしたんだ。また誰かに何か言われたのか。」
「それはちゃう。」
美沙は答えてから迷う。この際だから聞いても良いだろうか。
「じゃあ何だ。」
義兄は優しく尋ねてくる。美沙はまた少し考えた挙句、このモヤモヤを抱えてこのまま過ごす方が辛いと判断した。
「兄さんは何で私にこんな構ってくれるん。」
聞いた瞬間ピタと力が足を止め、美沙もそれに合わせる。
「何で。」
「急に気になった。」
「ふぅん。」
言って視線で続きを促す力に美沙は語った。
「私、ばあちゃん以外に可愛がってもろた事なくて、友達はこっち来てから谷地さんが初めてで、今でも他所から可愛くない変な奴あれほんまに女とか言われるしせやから。」
ここでためらったのは視線を合わせていないけど義兄が怒っているような気がしたからだ。
「そっか。」
力は静かに言った。
「とりあえずお前がそうやって自分で自分をけなすように追い込んだ奴ら教えろ、ちょっとシメる。」
思わぬ所で過保護が発動し美沙は慌てる。
「何を慌ててるんだ、当然だろ。」
「せやけど兄さん」
「美沙、俺はね」
力は言った。