第27章 【料理】
「ばあちゃんとこの包丁私がつこたら全然切れへんくてそれでガミガミ言われたけど、ここん家の包丁つこたらちゃんと出来た。あればあちゃんのの切れ味がめっちゃ悪かっただけで私が極端に下手ちゃうかったんや。包丁研ぐのって力いるらしいからばあちゃんよう出来んでそのまま無理矢理自分独特のコツでやってはったんやと思う。あと、学校の調理室のもあれ多分切れ味ひどい。他の子も切りにくそうにしてたもん。」
言って美沙はよっと林檎のへたを取り除く。
「しもたな、もっと早(は)よ気づいてたら私が研いだげれたやろに。孝行したい時に親はなしって言うけどやれやれ。」
「何でもかんでも出来やしないよ。美沙はいい子だからきっとおばあさんも楽だったと思うよ。」
せやろか、と呟き美沙は林檎を切り分け、小皿にのせる。
「その代わり父さんと母さんには頼むね。俺もするけど。」
「わかった。よっしゃでけた。はい、兄さん。」
「ありがとう。」
力は出された林檎を齧りながらふと思い、言った。
「これってあれかな。」
「へ。」
「漫画だとさ、何か夫婦みたいって言うとこかな。」
美沙の顔がみるみるうちに真っ赤になった。
「な、何を阿呆な。そもそも兄さんからそのような発言を聞くとは思わんかった。」
「俺としてはお前がそこまで動揺するとは思わなかったよ。でもまあ仕方ないか。」
"だって一線越えかけてるじゃないですか。"
"妹だって薄っすら気づいてると思いますが。"
月島に指摘されたことが力の頭に蘇る。
「仕方ないて、何が。」
美沙が剥いた林檎の皮と包丁を離れたところにどけながら聞いてくる。力はいつかのようにぼやけた笑みを浮かべてしかし義妹を見つめて言った。
「薄っすら気づいてるんだろう。」
「せ、せやから何を。」
言いながら一度どけた林檎の皮と包丁を手に席を立つ美沙、その視線が揺れている。しばらく兄妹は沈黙し、力は意地悪はこの辺にしようと思った。
「いいよ、お前はそのままで。」
力は言い、美沙はえ、と呟く。
「そのままでいいよ。」
力はもう一度言った。
「どっちみち一緒だ。お前も俺もお互いによりかかってるからな。」
美沙はう、うん、と言い林檎の皮と包丁を片付けに台所へ一旦行ってしまう。