第27章 【料理】
「月島、助かったよ。でも棘があったのは気のせいじゃないよな。」
「だって一線越えかけてるじゃないですか。」
「ツッキー、ちょっとっ。」
山口が慌てるが月島は素知らぬふりである。
「妹だって薄っすら気づいてると思いますが。」
「言ってくれるなよ。」
力は苦笑して流したがまだ若干の脅威があった。
「影山、いっせんこえかけてるって何の話だ。」
「俺にわかるか。縁下さんとあいつが仲良いって話じゃないのか。」
「そっとしといたげようよ、ねっねっ。ほら準備準備。」
鈍感組が力に直接尋ねそうだった為、谷地が慌てて話題をそらし事なきを得た。
そして母が不在の間、ぶっちゃけ美沙はよく頑張った。あまり凝ったものは出来ないようだが弁当に入っていた卵焼きは出汁巻きの奴で美味しかったし、いっぺんは南瓜を炊いてみたりなどもしてこれも力は美味しくいただき、父にも評判が良かった。献立は先にある程度決めていて、スマホのカレンダーアプリに書き込み、作り方がうろ覚えなものはこれまたスマホで調べてメモとして保存していたようだ。この辺は流石スマホ大好きの面目躍如といったところか。
「どうにもわからないな。」
明日には母が戻ってくるという日の夕食後、美沙が林檎を剥いているのを見ながら力は言った。
「お前何で料理にあんなにコンプレックスあるの。確かにちょいと手つき危ない時もあるけどちゃんと出来てるじゃないか。」
「それなんやけど」
美沙は言った。
「ばあちゃんにはよう包丁使う時不細工なやっちゃって言われっ放しで。」
「何って。」
「不器用、下手くそって。」
「ああ。」
「実際段取り悪いとこもあって遅いし、せやから私料理出来へん人やと思ってたんやけど、今回いっこわかった。」
「何。」
美沙は林檎の皮の最後の欠片を剥いてから言った。
「包丁。」
「え。」
美沙は林檎を切りながら言った。