第4章 【ハンドルネーム ままコさん】
そして2週間後くらいの事である。
「ノヤっさん、スマホで何見てんだ。」
「おう龍、動画サイトだ。お、何だこれ。新着動画、自分で絵描いた奴か。」
「どらどら。うはっ、下手くそっ。」
田中につられて木下と成田も西谷の手元を覗き込んでいる。
「確かに下手だけどさ、そんな悪くねーかな。」
木下が言う。
「うん、この人楽しんで作ったっての何となくわかるよな。」
成田が笑って言うと日向が俺にも見せてくださいと加わった。
「え、俺より絵うまいっ。しかも何か動いてるっ。」
更に谷地まで加わった。
「わあ、この人の色使い好きだなぁ、私。」
「力も見るかー。」
西谷に声をかけられ力はとりあえず付き合ってやろうと西谷の横から画面を見つめる。が、瞬間彼は硬直した。
「おい力、どした。」
西谷に言われても力は答えられない。画面に流れる動画、音楽に合わせて自分で描いたイラストを並べただけのシンプルな作り、可愛らしいが下手な絵、時折混ざるおそらく素材集から使用している図柄、その絵柄と使われた図柄に嫌という程見覚えがある。何も知らない田中が言った。
「やっぱ再生数全然だな。確かに頑張ったってのがよくわかるけどよ。投稿者は、ままコ、何だこれ本名そんままか。」
力の心拍数が上がる。
「あ、投稿者コメント書いてますよ。えーと、"どうも突然兄が出来てしまったうp主です。うっかり動画作ってしまいました、よろしく。"突然お兄さんってあれ、何かどこかで聞いた話のような。」
谷地が言う。力は確信した。このハンドルネームままコの中の人は今頃家で1人パソコンかスマホでゴソゴソやっている。間違いない。
「ひどいハンドルネームだな。」
力は思わず呟き、聞こえていた連中の多くは首を傾げたが察しの良い連中はあ、という顔をした。