第3章 任務
全員が揃い、会議が始まる。
対象は『アマザラシ』。何故か喰い荒らした死体をてるてる坊主の様に吊るす事と、雨の日に捕食を行う事からつけられた名前だ。
レートは計測中だが、A~Sランクと言われている。
「──ではクインクス班のみなさんには『アマザラシ』の足跡を追っていただいて……」
班長補佐が懸命に説明をしているが、私の耳には右から左へと流れ出ている。
そんな事よりも、私はササコが気になっていた。不自然な程じっと見つめていたが、ササコは気付く事なく話を聞いている。時折小さく頷く姿が可愛らしい。
抱きしめた時の事を思い出す。良い香りのするふわっと伸びた髪、長いまつげ、すっとした鼻筋に潤んだ形の良い唇──
ふと、あの唇はどんな味がするのだろうかと考えてしまった。何をふざけた事を。ササコは同性だ。
そんな事を考えている内に会議も終盤に差し掛かっていた。
「あと連絡係りとしてうちの班からひとり──」
班長補佐が言い終わるが先か、私は手を挙げ立候補をする。幸い実力は班の中ではかなり認められている。意義を唱える者も居ない。
「では、川季くん、よろしく頼んだよ」
内心ガッツポーズをしながら、敬礼をしてみせる。一緒に行動したかった男共は残念そうな顔をしている。ざまあ。
「改めて、よろしくね、みゆきさん!」
ササコが握手を求めてくる。もちろん断る事なく、きつく握手を交わす。その指先は細く華奢だ。こんな手で、本当にクインケを握れるんだろうか。
──ササコを守りたい。
自分より実力の有る者に対して使う言葉ではないが、体も心も傷つけたくないと思った。
最初は興味本位で近づいただけなのに、今はこんなにも愛おしくなってしまっているなんて。頭の中で警鐘が鳴る。このままではいけないと。
そう、このままではいけないのだ。