第18章 小さな幸せ 空条
翌日の朝、普段通り家を出て歩道の方へ行くと初めて朝あの気配を感じた。
振り返ると今度は姿を隠すことなくあの女が立っていた。
「…なにか用でもあるならさっさと言え」
やはり今回も女は何も言わなかった。だが昨日のように驚いた表情ではなく、とても楽しそうに笑っていた。…俺は迷惑しているわけじゃあねえが、ただなんだか腹がたって仕方がなかった。
「オイ、なんだ」
「…いえっ」
やっと返事をしたかと思えばその笑顔を崩さないまま笑った。なんだ、この女は。
無視して歩いていけばやはり一定の距離を保って俺の後ろを歩いて来る。俺の周りに女共があらわれてもその距離は変わらなかった。
「なんのつもりか、そろそろ話してもらおうか」
我慢ならずに昼休み、あとをつけていたであろう女のクラスを突き止め、腕を引いて教室を飛び出した。向かう先は勿論屋上だ。
「俺が旅行から帰ってからずっと、俺をつけてるな」
「…はい」
「何がしたいか、何をするつもりなのかを喋ってもらうぜ」
少し表情は強張っているようだったが、それほど怯えているわけでもないようでゆるい笑顔は崩れていなかった。
「ニヤニヤしてねーで、さっさと話せ」
すると女は頭を下げた。
「私は植嶋といいます、空条さんのストーカーです」
ストーカー?
俺はその言葉を一瞬どころか、ちょっとの間理解することができずにかたまっていた。
俺のストーカー?命知らずもいいとこだ、それより何故自称ストーカー…いや、俺に許可なく気がつかれないように後をつけていたのだからストーカーで正しいのか、何故自分から言ってくるのか。普通ならいいわけでも何でもするもんじゃあねえのか…?