第16章 シンパビート 空条 ★
単純すぎたオンビートなどもうどうでもいい、少し遠回りしたオフビートで少しずつ。
お前が俺が愛したお前自身が嫌いだというのなら制御可能なビートをゆっくりと緩めていこう。
「生きていたい」
亜理紗と同じ苦しみを味わいたくて呟いた俺。
見えない深い傷がつきまくっているお前に何もできない俺。
痛いという感情が分散されているのに気が付いたか。
なあ、亜理紗、お前は独りじゃあないんだぜ。
「…きれいだ」
お前がぎこちない笑みを見せた時、俺はつい零してしまった。その時お前は胸の前で両手を握りしめて顔を下に向けた。
「どうした」
お前が俺に対して一方的に刃をとったことなんてなかったな。俺に隙が無いのをお前は知っていた、だから俺が受け止めてやると手を伸ばした時にしかお前は俺を傷つけなかった。
「今度は」
ほら、またお前が悲しそうに刃を向けるから
「どうやって傷をつけるんだ」
独りじゃないと気が付いただろ。
「亜理紗」
与えてくれた全てを、哀という名の刃を振りかざして俺に手を伸ばす。
それを突き立てれば愛に変わるというのをお前は知っている。
「…優しすぎるのよ」
また泣きそうな顔をする。
「亜理紗」
その顔は遠くに感じなかった。
同じように手のひらに突き立てられた刃には俺の赤が付いていないように見えた。
ぐちゃぐちゃになったお前の感情も、お前の表情も、俺ならくみ取ってやれるから。
「好きだ」
頑張らなくていい、意地なんて張るな。
「私は承太郎、あなたが―」
END