第16章 シンパビート 空条 ★
俺を気にしている事はしっている。いつも辛そうに俺を見ているのも、ウットーしそうに舌打ちをするのも、俺の事が心底嫌いなんだろうってのも全部。「嫌い」という言葉を俺に伝えたところで亜理紗の事を離さないのを知っているのも。
無駄だと感じて少し絶望しているのも。知ってる。
「何のつもり」
声をかけるといつもこれだ。無視をすればいいものを、嫌そうにしながらも後ろから声をかけた俺の方へ振り返る。だがコイツだけだ、俺が近づいて喜ばないのは。自分で言うのもなんだがな。
そんなお前が、俺は好きだ。
「離してよ」
「…」
いくら伝えても俺の腕に力を込める手を緩めようとしない。ギリ、と握りしめて爪を立てて、腕から血がにじむのがわかる。
この温度が、この鼓動が、全てが好きだ。だから亜理紗が嫌がろうったってこの腕を緩めてやる気にはなれない。お前が怒っているのを、俺が一番よく知っている。
「…もう、やめてくれる?」
「亜理紗」
拘束を解き、両肩を掴み、こちらに振り向かせて名前を呼べば決まって両目をギラリと光らせる。
亜理紗が俺のこのグリーンの目が好きで、でも嫌いだというのも知っている。だから亜理紗が不意に俺の目をつぶそうと指を差し向けてくる。それを受け止めてやろうとも思う。でもいつも眼球に指が触れる直前でその指が止まる。
「…怖くはないのね」
ああ、呆れたように吐き捨てても、お前はその言葉自体は捨てきれていないんだぜ。亜理紗は優しいからきっと潰してしまった俺の目を、瞼の上から撫でてくれるんだろうな。
亜理紗から与えられる痛みなんて苦痛じゃあない、それはお前の考えるような罰でもない。
だがもし、それが亜理紗を愛した罰だというのなら喜んで受け止める。