第12章 夢見ガール シーザー
そんな事があってからしばらくして、リサリサさんから連絡が入った。
『亜理紗、一緒に暮らしましょう』
…と。
私は勿論断った。リサリサさんはとても優しい。まるでお母さんのように私のことを大切にしてくれて、実のお母さんと同じくらいに信用している。
だから、だからこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「私の事なら大丈夫、今迄通りの生活に戻るだけだから」
何度も言い聞かせてきた言葉、今迄通りの生活。そう、シーザーのいないあの寂しい生活。私は恐れてはいないけれど、酷く悲しかった。寂しかった。私の中でどれだけシーザーが大きな存在だったかというのを思い知らされた。
『…そう、じゃあ私の家でお茶でもどうかしら』
「それなら」
リサリサさんの淹れるお茶はとても美味しい。同じ茶葉を使っているはずなのになんだか違う飲み物を飲んでいるみたいでビックリするほど。
『明日の10時、待っているわね』
ガチャンと電話を切り、空を見上げた。
そういえばシーザーは今頃何処にいるんだろうと考える。もう天国にはいったのかしら、お爺さんやお父さんには会うことができたのかしら、と。
きっとシーザーの事だから、お父さんに泣きながら抱き付いたりして、お爺さんと波紋について語ったりしている頃かもしれない。
「…いないのよね」
私の隣には帰ってこないけれど。全く、どうしてあんなに自信満々に家を出たのよ。死ぬ死なないの話はなかったけれど大丈夫と言ったじゃないの。大嘘付きよね、キザでもスケコマシでもなかったただの初心な男の人、シーザー。
「ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘ってあるのよ」
大丈夫と言ったならちゃんと帰ってきて。
キスを落としてくれた額にもう一度熱を吹き込んで。
今の私は、何も信じられないただの亡骸みたいなものよ。