第4章 voice 花京院
「それと…これ」
薄いピンク色のファイルを渡された。中はルーズリーフでそれが何枚か入っていた。
「これは?」
「今日の授業で板書したやつ。ごめんね、殴り書きみたいで汚くて…」
「い、いや、わざわざありがとう」
綺麗な字だった。殴り書きだと彼女は言うがこれのどこがそういう風にみえるのだろうか?少なくとも僕の字よりずっと丁寧で綺麗だ。しかもマーカーや色ペンなどでしっかりと色分けをされている。
「あ、あとコレ。お見舞い」
ビニール袋の中には定番と言ってもいいであろうリンゴや即席おかゆ(パッケージごとお湯で温めるタイプ)などいろいろ入っていた。
「あぁ、お茶くらい出すよ」
「え?!い、いいよ悪いし、一応花京院君は病人だし寝なきゃ…」
「大丈夫だ」
なら、と彼女は僕について家の中に入ってきた。
なんだか新鮮な気分だ。女の子を家に上げるだなんて小さい頃以来したことがないから違和感を覚える。玄関に見慣れない女の子の靴が置いてあって表情が緩んでしまった。
「リビングはちょっと汚いから、僕の部屋でいいかな」
「お構いなくっ」
これは本当の事だ。リビングは家族で使っているから、洗濯物やまだ洗っていない食器類があったりする。いつもならこんなの気にしないのに、異性だからなのだろうか、あまり情けない姿は見せたくないと思った。
「わ、片付いてる…私の部屋よりきれいだよ」
「家具を沢山置くのが苦手なだけさ」
きっと女子部屋なんてものはオシャレな小物や可愛い家具が沢山置いてあるんだろう。それに洋服だってあるんだし、クローゼットはきっと大きいものだろう。
それに比べれば確かに僕の部屋は酷くすっきりしたものなのかもしれない。置いてあるのは簡易ベッドや折り畳み式の机だし、大きい家具と言えば本棚しかない。