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ジョジョ短編集

第24章 Fire flour 空条



結局冬に帰ることはできなかった。講演会があり、手続きができなかった。
そう話せば亜理紗は気にしないでと電話越しにいった。
気にしないで、という言葉が気にしてほしい、帰ってきてほしい、そう言っているのを俺は理解していた。
俺には家庭がある。冬ともなればこちらで過ごさなくてはならないしそれを亜理紗は知っていた。俺は亜理紗を照らしだし輝かせるだけの人間ではないという事…それは俺が既婚者であることから導き出せる答えでもあった。弱々しい光は決して亜理紗一人の魅力を引き出せるような資格を持っていない。
だから、電話でしか言えない。謝罪の言葉も、励ましの言葉も、感謝の言葉も。

「…すまない、帰れると言ったんだが、な」

『大丈夫だよ、実家に帰るつもりだったし』

はなっから期待なんてしていなかったんだな。そう笑えてくる。
帰れていたら亜理紗の笑顔はどう輝いていたんだろうか。いや、俺に向けられた笑顔を純粋に受け止められないだろう。

『そっちではうまくやってる?』

「ああ、色々立て込んではいるがな」

『それなら、いいの』

打ち上げ花火が俺を後押ししてくれたあの日に戻れたのなら迷わず亜理紗を抱きしめていただろう。まだアイツの横に並べる資格があった俺が何かを言うのなら迷わずこう言うだろう。
【お前を好きでいられてよかった】と。
だがもう遅い話。過去を振り返り後悔することは大人がすることだ。既に大人となった俺達は後悔を涙で片づけることしかできない。良し悪し、まあ未来に関係することなのだからどちらとも考えられるが…。
今、俺にできることは何だろうか。直ぐにでも日本へ行くことだろうか。家族に謝り、日本へ行きたいといえば行かせてくれるだろう。だがそれがどうにもできないのが俺の甘さだ。どちらからも裏切られたくないという自分自身への甘い考え。
あの夏の日咲いていた向日葵のように、堂々と亜理紗の横に立ちたい。あの日咲いた大きな打ち上げ花火のように、堂々と照らしてやりたい。
どうして俺は、今怯えているんだろうか。まるで消えかかった線香花火のようで頼りない俺を亜理紗はどう受け止めてくれるんだろうか。
もう亜理紗を照らせない筈なのに、アイツは俺に変わらず笑いかけてくれるんだろう。
それがアイツの優しさであり甘さである。


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