第21章 音 空条
外に車が通った。
雨が降り始めたみたい。
紙がこすれる音がしてる。
私の心拍音がある。
承太郎の呼吸音がする。
一体、何に不安を感じるのか…わからない。
「ねえってば…」
ぱら、とまた本がめくられる。そのたび涙が溢れる。
いつまで私を放って置くの?
そんな言葉を口にする方が怖くて、黙って壁に背中を預けて座り込む。
「……こわいんだけど」
やっぱり見向きもしない。
これが彼女に対する態度なわけ、とぶん殴ってやりたい。
雨が強い、仕方がないから窓を閉めて雨が入らないようにするとようやく承太郎は私を見た。
「なあ」
「……」
なんだかすぐに返事をするのが悔しくて、わざときこえないふりをする。
まだ、こころには不安感がのしかかっている。
「聞こえてんだろ」
しらないしらない、聞こえてないから。今私は怖いんだから。
承太郎を怖がっているわけじゃなくて、そう、音が怖い。音が。
「…亜理紗?」
さすがに心配になったのか不安げに私の事を呼ぶ。
もう遅いのに。
「…無理、限界」
私は承太郎の部屋を飛び出した。
ああ、私が怖がっていたのはこの瞬間の音だったのか。
崩れ去る、愛情の音。
がらがらと音を立てて粉々になる、恋の音。
もうだめだ。私の事なんてどうでもいいんでしょ。
だってホラ…私を追いかけてくるあなたの音が聞こえない。
END