第3章 soundless voice
三日後――
まるで桜のようにヒラヒラと舞い落ちる雪の中、の葬式が執り行われた。
俺の心にはポッカリと穴が空いてしまったようで、少しでも風が吹くと胸の奥の方が痛くなるほど寒くなった。
人間は本当に悲しくなると涙は出ないものなのだろうか?
が死んだ日から俺は一度も泣いていなかった。
……ただがいなくなったことに実感がないだけかも知れないけど。
葬式が終わって外に出る頃には、雪は少し積り銀世界を作り始めていた。
「孝支君」
フッと雪が途切れた。後ろを振り返るとのお母さんが傘を差し出してくれていた。
「そのままじゃ風邪引いちゃうわよ?」
「あ……ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる俺に、おばさんは首を振った。
「ううん、私こそお礼を言わなくちゃ。のこと……最期まで一緒にいてくれてありがとうね」
「いえ、好きでやっていたことですから」
誰に頼まれた訳ではない。俺が好きでやっていたのだから、お礼を言われる様な事は何もしていない。
そうだ。俺はに何もしてやれなかったんだ……何も。
「あのね、孝支君に受け取ってほしいものがあるの」
ごそごそとおばさんが出したのは、今ではあまり見なくたったカセットテープとそのプレイヤーだった。
「孝支君へ……から」
「から……?」
「うん。それを聞いてからでもいいから、なるべく早く中に入ってね」
俺の手にテープとプレイヤーを乗せて帰るおばさんを見送りながら、俺はイヤホンを耳に差し込んだ。
『孝ちゃん』
三日振りに聞いたその声はとても懐かしくて、安心感があった。
『孝ちゃん、あのね……』
続いた言葉を聞きながら「もういないんだなぁ」と、やっと実感できて、視界がぼやけてきた。
「う…うぁああああぁあ……ああぁ…」
気が付けばメッセージが終わる頃には、服が濡れるのを気にせずに雪の上に膝をついて、プレイヤーを抱き締めながら大泣きしていた。
のあの声は、あの歌は、もうどこにもいない。
大好きだって、愛してるって、まだ言えてないのに。
叫んでも叫んでも、もう俺の声は届かない。
あぁ、もう一度。
テープじゃなくて、もう一度。
君の声が…聞きたい。