第5章 今剣 そして、二度目の出陣
加州が完全にこちらを向く。
「今剣だっけ?一緒に道場に行こう。体を得たばっかだし、慣れてないよな。だから慣れてもらう為に、手合せお願いしたい。」
「でも、あるじさまは?」
「寝てれば回復するでしょ。それに、ゴキブリ並みの生命力だし。」
また、コイツ言いやがった…。G並なんて、そんなの持ってないわ!
眉間に皺を寄せる。ウチのそんな顔を見て、加州は「おお、怖っ!」なんてわざとらしく言う。
「兎に角、そのチビが早く良くなって欲しいのなら、俺達は邪魔になる。」
正座してウチの隣に居た今剣の目線に合わせるかのように、屈む。それから、微笑みながら、「な!」と言った。
「…わかりました…。」
若干納得がいってない感じだが、優しい声音で言われて、今剣は立ち上がった。
「道場へ、案内します。」
こんのすけも立ち上がり、部屋を出る。しっかりと、二振りの刀が来るまで待っている。
「あるじさま、しっかりやすんでください。」
「うん、有難う。ごめんね、来て早々にこんなんで…。」
あはは、と苦笑い気味に笑う。今剣は左右に首を振って、「だいじょうぶです。」って言ってくれた。
「いってきます。」
こんのすけの後を追って、出て行く今剣。だが、一人だけここに残っていた。
「加州、行かないの?自分から言っといて…。」
まだ、ウチの隣に片膝を立てて居た。今剣の後姿を見ていたのだろう。目は扉を見ていた。
「…行くよ。…昼、何食べる…?」
「昼?」
そう。赤い眼がこちらに向けられた。予想なんてしてない質問に、反応が遅れる。
「まあ、俺が作れる範囲になるけど…。」
苦虫を噛み潰したような顔を見せる。ああ、こんなじゃなければ、ウチが作るはずだったのに…御免なさい…。
「…加州が作れるので…。」
「…分かった。」
そのまま立ち上がり、ついに道場に行こうとしている。でも、その場で立ったままでいる。直ぐに行くのかと思っていたのに、不思議に思って声をかけようとした。
「うぇ、ちょっ!」
突然、ウチの頭目掛けて伸ばされる爪が赤い手。そのまま、髪がクシャクシャになるのもお構いなしで、撫で?られる。
あまりに唐突な事で、思わず加州を見上げて凝視する。加州の分けられた前髪が、前に掛かって見えない。
それから何事もなかったかのように、部屋から出て行った。
