第5章 今剣 そして、二度目の出陣
ふかふかした感触。今、ウチは自身が使っている布団に寝ていた。当然、自分の部屋だ。
「あるじさま、だいじょうぶですか?」
横になる姿勢で寝ていて、顔は縁側に向かっている。そこに、義経公の刀である今剣が顔を覗いて見てくる。
その奥には、開いている障子の扉に片膝を立てて座る加州がいる。
「頭が痛い…。」
と、言えばオロオロとし始める今剣。それとは対照的に、眉間に皺を寄せた顔をする加州。
「馬鹿じゃないの?体調が悪くなってるって気付いていたんなら、起こすの止めとけば良かったんじゃないの?」
「…はい…。」
図星な事を言われているので、返す言葉など皆無だ。溜息を吐かれ、赤い目はウチから離れて、外の景色に向けた。
鍛刀部屋からここまで、結構な距離がある。しかも相当な怠さと頭の痛さで、今にも倒れようかと思ってたけど、踏ん張って自分の部屋に帰って来て、今に至る。
手を貸してくれる位してくれてもいいじゃないですか…。
「力の使い過ぎですね。」
今剣の隣に座っているこんのすけが口を開く。
「力の…使い過ぎ…?」
「はい。」
睡魔が襲い始めた頭を、起こしながら耳を傾ける。
「鍛刀でも直接ではないにしても、力を使います。ただ、その力の量は起こす事よりも、遥かに多くの力を使います。なので、始めの内は一振り乃至時間を置いて起こす事をお勧めします。」
それに…。と言葉を続けるこんのすけ。
「いい忘れていましたが、手伝い札も力を使います。他にも色々同様に力を使う物はあります。気を付けてください。」
(気を付けろって…。あのさ、それ鍛刀前とか、昨日とかに言ってくんないかな…?狐ェ…。)
文句を言うにも、口に出す前に痛みにより、口の中で消える。心の中で思うだけにした。
「しにませんよね?」
「死なないから…、勝手に殺さないで…。」
「病人ー、煩いよ。」
また冷めた目で見られる。ウチの今のオアシスは、今剣だけだ…。
徐々に眠気が押し寄せてくる。瞼が落ちてくる…。
眠気で翳み始めた目が、部屋から出て行く加州の姿を捉えた。
「…何処か行くの…?加州…。」
ウチの呟くような声に今剣が加州の方に顔を向ける。障子に手を掛けていた加州がこちらを向く。
「道場。アンタはしばらく寝てれば?そんなんで指揮を執ってもらったって、困る。」
