第4章 初鍛刀
一切分からない表情でこんのすけは、加州に目を向ける。ウチは黙ってその光景を見ているしかなかった。
「これから、その事について岩動様をご案内しようと思っていた処です。」
座布団に座っていた体を立ち上がらせ、この場ーーウチの部屋から出ていく。
「……え、どこ行くの?」
ただただ茫然とその後を見るだけでいた。そんなウチの後頭部を誰かが叩いた。
見上げれば、二つの赤い眼が見下ろしている。
「行くよ。アイツが案内するらしいから。」
言い終われば、加州も部屋から出ていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて加州の後ろをついて行く。それしかウチには選択肢がなかった。
★★★
太陽が出ている昼間なのに、薄暗い廊下。小走りに進んでいけば、案外すんなりとこんのすけに追いつけた。
「加州。」
横の付喪神の名を呼びかければ、赤い目だけが向けられる。身長の関係で、どう見ても見下される感じになる。
「理解してるけど、一人じゃ戦えない…よね?」
あの某無双ゲームのように、無双みたいな事が出来ないのかと、ふと思った。
溜息を吐かれて、顔が完全にこちらを見据える。
「当たり前でしょ。一人で出来たら、瀕死の状態にならない。」
「はい…。」
「それに、一人で戦えないのが普通だから。」
突然止まる彼に、自然とウチの足も止まる。
「相手はどうやってでも、制圧したい、勝ちたいって思っている。だから自ずと数を多くする。幾ら百戦錬磨な人だって、数には時間が掛かるけど結局は負ける。」
また歩き始めた加州は、ウチの横を通り過ぎる。その姿を目で追っていった。
「質もそうだけど、今は量。仲間を増やさなきゃ、それから力。でなきゃ幾ら守りたいって思っていても、守れはしない。」
一瞬暗い顔をした。朝食の時の顔が見えた。だが、それから口元がニヤついた。
「まあ、アンタは守られなくても大丈夫そうだし~。ゴキブリ並みの生命力持ってそうだしね。」
クスクスっと笑いながら距離が離れていく。
「ゴキブリ並みの生命力って…。」
(んなモン持ってないわ!!)
馬鹿にした台詞に苛立ちが込み上げる。ああ、あの黒い背中に飛び蹴りをかましたい…。
わなわなと拳を作り震えていれば、馬鹿にした張本人がこちらを見てくる。
「早く来なよ。アンタが来なきゃ始まらない。」