第4章 初鍛刀
「何で、ここでマニキュア塗っているの!?」
両手にゲーム機を持った形で振り向けば、正に塗る動作をしている光景が目に入る。
「別に何処でもいいじゃん。」
「良いとしても、何で此処なの?」
「一人寂しく、広ーい部屋で紅塗っていれば良いの?」
意味分からん、正直そう思った。加州の顔なんて、コイツ本気で言ってるの?みたいな顔だし。
最近ハマっているRPGを少しでも進めたいと思って、始めた直後、突然扉が勢いよく開かれた。
驚きのあまり、口をあんぐり開けて犯人である加州を凝視すれば、そんな視線もお構いなしに、部屋に入って来た。ドカッと扉の近くに片膝立てて座り、隣に自身の本体を置いた。
特に何もないから、スルーしてゲームに集中していたけど…。うるさかった。丁度後ろにいる加州の独り言がうるさくって振り向いた。そして今の状態になった。
「え、寂しいなんて思うの?」
「アンタ本当に失礼だよね。」
態とそう言えば、ジドっとした目を向けられる。彼の手元を見れば、慎重に塗っているのかまだ左手の人差指だけしか塗られていなかった。
「まだ、人の体を得て二日目だからね…。でも、何で髪はあんなに綺麗に整えれたの?」
震えながら、一つ一つ塗っていく加州の姿を見て、疑問が芽生えた。
やっと五本の指の爪に塗り終えた加州が目を合わせてくる。その顔は、あんまりにも馬鹿な質問だと眉間に皺を寄せていた。
「そりゃ、”切る”のと”塗る”のとは意味も行動も違うでしょ。俺は刀だよ。人を切り、殺す為に生まれた物で道具。本業が出来なくてどうすんの?」
美術品じゃあるまいし。自分を嘲笑うかのように鼻で笑う加州。
忘れてはいないけど、当たり前だ。加州は人間のように話せて、感情を見せるけど本質は変わらない。
人を殺す事を必要とされた武器だ。刀だ。
なにも言ってこないウチにお構いなしに、右手の爪を塗り始めている。
(…そんな事言われちゃ、なんも言い返せない。)
そんな微妙な空気になったこの空間に、来客が訪れて来た。
★★★
用意した座布団にちょこんと昨日と同様に座る、黄色い物体ーーこんのすけ。
「加州清光も居られたのですね。」
「よく分かんないけど…まあ…。」
加州を正面から見る感じに体勢を変える。軽く横目で見れば、まだマニキュアと格闘していた。
「岩動様。」