第4章 初鍛刀
別に目が死んでる訳ではないけど、光が見えない目がこちらに向かれる。
「どんな味でそれが美味しい物だったのかどうかも分かんないのに?」
「いや、ウチも分かんないし。でも、その人の料理姿見ていて、分かってるんなら作れるんじゃない?多分?」
根拠の無い事を言ってみる。そうしてみれば、呆れたような溜息が吐かれる。
っていうか、加州の主は料理出来る人だったんだね。誰だか知んないけど。
「ねえ、一つ聞いても良い?」
食べ終えて、両手を合わせて挨拶をしている最中に加州から質問が来る。
「何で髪切ったの?あの時。」
肘を机に立て、頬杖をつく。そんな姿を見ながら、髪を無造作に切った事を思い出す。
「死ねって言っときながら、詫びるのに命を差し出さないなんて、どうしてそんな事したの。」
聞きたかったんだよね。いつの間にか加州の目に光が戻っている気がした。
「…昔の女性って、髪の毛切るなんて言語道断な事じゃない?どうだか知んないけど…。髪の毛って長く伸ばせば伸ばすほど、霊力が宿るとか、気持ちが宿るとかそんな事聞いた事があってさ。」
黙って聞いてくれる目の前の人に、甘えて話を続ける。
「…死ねって言ったのは本当に悪い事だし、自分が死ねよって話になるけど…。ウチはまだ死にたくないし、死ねない。やりたい事まだあるし、人生これからだし。だから、命と同等だって昔言われていた髪の毛を切った。ただそれだけ。」
うんうん。何度も頷いて加州を見る。
髪の毛の話は何処かで幼い頃に聞いた。もしかしたら嘘なのかもしれないけど、昔の女性で今みたいにショートにした人は聞いた事が無いから本当なのかもって。
「まあ、死なれたら困る。…”あの人”みたいに」
簡単に死なれたらさ…。ボソッと紡がれる言葉がウチの耳に届く。どういう意味なのかさっぱり分かんない。
「どういう事?」
「別に、どういう事もないから。…あの時に自害なんてされたら、めんどくさいし、嫌だって事だよ。」
溜息をまた吐いて、今度はやれやれみたいな顔を見せる。
その顔がウチの神経を逆なでてきて、イラッときた。
「ムカつくな、おい!なんだよ、その顔!!」
「元からと言うか、アンタが体を与えてからこの顔ですけどー。」
ジドーっとした目でこっちを見る加州に、イラつきが増す。
これが、ウチの初めての刀だ。
