第4章 初鍛刀
居間の長方形の炬燵机に加州と向き合う形で座る。ウチに向かって大きな音を立てながら、皿を差し出してくる。その上に乗せられたモノが少し浮く。
「…食べれば。」
そっぽを向きながら、呟く感じで言ってくる。
乗っている物を見れば、お世辞にも綺麗とは言えないお握り。形も所々崩れ始めている。
ウチはただ凝視していた。
「…やっぱりこんなんじゃ、食べたくないよね…。」
食べていいのか分かんなくて見ていたウチの視界に、色白の手が伸びる。
手は目の前の皿を持って行こうとする。
(吃驚して、見ていただけなのにーー。)
「ちょ、待って!!」
慌てて皿を下ろそうとする加州の手を掴んだ。掴まれた事に驚いたのか、ウチに対して背けていた顔をこちらに見せた。目が点になっている。
「あ、ご、ごめん…。」
苦手な男性の手を掴んでいた事を思い出して、慌てて離す。反射的に起こしたから、意識し始めて顔が熱くなるのが分かる。
「別に食べないって、言ってないし。お腹空いてるんで、ください。」
語尾が小さくなっていくのが分かる。加州の顔が見れず、顔を下に向ける。
そんなウチの耳に今度は、さっきみたいな大きい音ではない、でも皿を置く音が届いた。
「有難う…。」
顔を上げ加州を見やる。
お礼の言葉を口にすれば、またそっぽを向かれた。でも、その横顔はどこか赤く染まっているようだった。
★★★
「…お握り、作れるんだね…。」
不格好なお握りを頬張りながら、独り言のように呟いた。
人の形を得てから、まだ一日も経ってないのに…。形は歪で塩が効きすぎてしょっぱいけど、お握りだ。
「…”あの人”も作ってた。それを間近で見てたし、思い出しながら作ってたけど…。」
実際にやってみると難しいものだな…。ウチと同じ様に頬張りながらウチの独り言を拾ってくれた。
「”あの人”って、君の主さん?」
「…そうだね…。うん、そう。」
しょっぱ。と一瞬口を窄める素振りを見せてから、自分で作ったお握りを見やっていた。
ただ、その後の表情はこちらからは何を考えているのか分かんないもので、ウチから見れば、目に光が無いように思えた。
正直、怖いと感じた。
「…うん、しょっぱい。でも、慣れていけば君の主さんが作ってたお握りを君も作れるようになれるんじゃない?」