第3章 初日終了
新聞紙から外れて落ちたウチの髪の毛を掃きながら、加州の爪を盗み見る。
あの本体の鞘の色みたいだ。見惚れてしまい、いつの間にか手が止まってしまっていた。
「手、止まってる。早く終わらせないと、大きくなれないよ~。」
加州が止まったウチの頭を、首が大きく左右に揺れる程、撫でたような揺らされた。
「ちょ、止めてよ。…って言うか、成長期なんてとっくに終わってるから、もう大きくなんて成れねーし。」
拗ねたような感じでわざとらしく、言ってみた。
「うわ~、ドンマイ。」
「ドンマイ、じゃねーし!」
まだ会って一日に至ってないにも関わらず、もう馴れ合ってる。可笑しいなんて思いながらも、不思議と嫌じゃない。
「そう言えば、マニキュア塗るんだね。」
「マニキュア…ああ…爪のね。そうらしいね。」
加州は他人事の様に自分の手入が行き届いた手を見る。ああ、そうか。自分がどんな格好しているのか、起きてみなきゃわからないから。
「ま、どうでもいいけど。」
「いいのかよ!?」
思わずツッコミを入れる。それから、彼の頭から爪先まで見てみる。
「ブーツ…男の人が履いてるのは初めて見たかも……。」
今は履いてないけど、ウチの目の前に現れた時は、履いていたはず。黒色の女性が着用しても違和感が無いそんなデザインの。
「靴ね…。あれさ、正直に言うと、痛い。まともに走れないし、足首に負担が掛かってくる。」
「ヒールはね…。偶に、ぺったんこのブーツでも履いてみたら?ヒールは履き続けると、足の指が変形するから。」
外反母趾だっけ?オシャレとか興味が一切ないから、そんな乙女な悩みなんて気にはしてなかったな。足が変形するのは知ってたからそんなに履いてないしね。
「そうだね。その前に、そのブーツがあれば良いけどね。現に、手元にそんなの無いじゃん。」
「あ、はい。…探してみます。」
有無を言わせない。赤い目がそう訴える気がした。
って言うか、ウチが探すなんてさ、センスが壊滅的だと思うよ?ウチ。
これさ、どっちが所謂”主”なのか分からないよね?他の本丸の”加州清光”もこんな感じなのかな。
「手がまた止まってる。」
物思いに更けてしまい、手が働かなくなっていた。加州の方は終わったらしく、屈んでいるウチを見下ろしていた。
「ごめんなさい。」
「ほら、とっととやる。」
