第1章 刀選び
眉間に少し皺を寄せ、目の前の相手を見る。どうして開口一番の言葉になるのか予想は付くけど、しっかり口にしてくんなきゃ分かんない。要するに、不満だ。
それが向うに伝わったのか、言葉が続けられる。
「君がその”審神者”に選ばれたんだ。」
続いた言葉に目を見開いて相手を凝視する。
(ウチが”審神者”…!?何かの間違えでしょ!)
傍迷惑をやっている”歴史改変主義者”に対して唯一歴史を変えずに抑えるには、”審神者”の力が必要不可欠。
それは望めば成れるものではないし、数だって最近多くなり始めたばっかだ。
「何日か前から、周りの景色に違和感を感じないかい?」
「違和感…。」
言われて思い返してみる。確かに違和感があった。いつもあるのが当たり前な物がなくなっていたり、クラスメイトの性格が変わってたり、ここ数日違和感だらけだった。
「あったらしいね。」
「…はい。」
”審神者”に成る人は体の細胞が普通の人とは殆ど同じだけど、変わってしまう。ただ、一番の特徴が<未来が変わっても何も影響されない>というもの。他にも色々あるけど。
解りやすく言えば、電〇の設定にある分岐点みたいなもの。
「君の血液検査でね、君の細胞が去年の今頃や、九月に採取したものとは変わっていたんだ。」
審神者の細胞にね。そう続けて、初老の男は目を細める。
血液検査は年二回、四月と九月に行う。全国民が受ける義務みたいなもの。
まあそれのお陰で、病気の早期発見に役立っている。でも本来は審神者探しの為にやっている事で、それによって審神者が増え始めた。
「十分審神者の特徴が出ている。」
椅子の軋む音が聞こえる。思いっ切り腰掛に体重をかけているんだろう。
「学校の事は心配しなくていい。これは我らが祖国に対して、誇らしい事であるから。」
男は椅子から立ち上がり、背に向けていた窓に近寄り外を見ている。
その台詞はまるでお国の為にと言っているようだ。
「君は家族は好きかい?」
「えっ…。」
唐突の問いに、反応が遅れる。
「好きですけど…。」
語尾がどんどん弱くなる。訳が解んない。何でそんな事を聞くんだこの人。
また眉間に皺が寄る。
「歴史が変わるとその好きな家族やものが無くなる。わかるよね。」
「はい…。」
窓に向けていた顔がこちらに向けられる。