第3章 初日終了
濡らしたタオルで傷口を拭きながら、打ち粉を押し当てポンポンとしていく。すると、傷が一瞬で消えていく。
この不思議な光景をまじまじ見ながら、手を休めずに続ける。結界師に出て来そうな形の式神も、自分よりも大きい打ち粉を持ち上げ手伝ってくれる。
「刀剣男士には、人間にあるものが無いのです。」
突然、こんのすけが話し始める。ウチがこの光景について疑問に思っているのが解ったのかもしれない。
「それって、これに関係があるの?」
「はい。人間には自然治癒力が有りますが、刀剣男士にはそれが無いのです。」
傷を負っても、大体は放置しても治ってくれる。それは生きている生物全てが持っている力。
でも、人間が作り出した物だったら?幾ら人間みたいに、話したり、考えたり、動けたり出来ても、
「放置すれば、死んでしまう…。」
「そうです。幾ら審神者様が人間の様な姿形、力を与えても、元は刀です。物です。完全に人間になるわけではありません。」
動かしていた手を止めた。それを見ていたこんのすけは続けて言った。
「死んで欲しくなければ、すぐに手入をすればいいのです。だから、大丈夫です。」
この後はウチもこんのすけも一言も話さず、黙々と手を動かしていた。
★★★
「では、また明日。」
政府の元へ帰るというこんのすけを見送る。
手当はすぐに終わったけど、寝ていた加州清光の傍を離れたくはなかった。気づいたら、夕方になっていた。
(そりゃあ、お腹が空くわ。)
昼食を食べていなくて、腹の虫は盛大に鳴っている。これで夕食も抜いたら、流石にヤバい…。
ご飯を作るため、台所へ行く。今日からは、自分が家事をしていかなくちゃいけない。めんどくさいし、やりたくないと思う。
(やんなくちゃウチが死ぬからな…。)
腕捲りをして、冷蔵庫を見やれば、材料が色々と置いてあった。凄い…。
これだけあれば、二人分しっかりと作れる。
憂鬱な気分を一掃して、台所に立つ。包丁はしっかりと洗ってあるし、手入室も掃除した。
食べたい料理を決め、作り方を思い出しながら始めていく。
自然と鼻歌が出てくる。作っていると楽しくなり始める。そんな時だった。
(誰かいる?)
なんか人の気配がした、後ろの方から。恐る恐る振り返れば--、
「ぎゃあ!」
加州清光が見ていた。しかも凝視で。