第3章 初日終了
なんとも色気の無い声が出た。まあ、夢小説じゃないからこれが現実だ…。
「な、何でしょうか?」
食材を切る手を止め、体を向ける。視線は合わせない。テレビで、視線を合わせない方が良いなんて聞いた。
「何やってんの?」
質問が質問で帰って来た。いや聞いたのはこっちなんだけど…。
めんどくさいから、こっちが答える。
「夕飯作っていました。」
「夕飯…?夕餉の事?」
首を傾げながらこちらにまた質問を投げる。夕飯なんて言葉使われてないんだ、加州清光が作られて、いた時代は…。
じゃあ、夕餉でいいのかな?時代物のゲームやマンガもそうだったし。
「そうですね…。」
その後はどちらも喋らず、時間だけが流れる。沈黙が痛い。
(早く、作ってしまおう。この空気居た堪れない…。)
相手には失礼だけど、調理に戻る。
メニューはお味噌汁、ご飯、野菜が盛られた焼いた鶏肉、(照り焼き)と決めていた。丁度、豆腐をパックから出そうとした。
包丁を突き立て、思いっ切りぶっ刺す。ウチの背中にはまだ気配が残っている。
(いや、本当何ですか…。)
何も言わないで、動く気配がないのが恐ろしい。
開けたパックから豆腐を取り出し、掌の上で切ろうと包丁を構えた瞬間、
「有難う。」
はっきりとした声が聞こえた。突然の事で体が飛び上がる。何がと思いながら振り返る。手に豆腐を乗せながら。
「手入してくれて、有難う。」
視線の先には、目を逸らしながら、口を開く加州清光の姿があった。
「え、…どういたしまして…?」
予想だにしない事で、疑問形になってしまった。
それからまた、沈黙。向うも話す雰囲気でないので、豆腐を切る事に戻る。
★★★
どれぐらい時間が経ったの分からないけど、料理は後、鶏肉が焼けるだけ。あの人は未だに動く気配が無い。
フライパンの鶏肉が焦げずに焼けているか見ていれば、足音が聞こえる。それがウチの左隣で止む。
左を見れば、ウチよりも当然ある背丈があった。
「何作ってんの?」
こちらを見ず、フライパンを見ながら尋ねてくる。
「照り焼きチキン。」
答えれば、何それみたいな感情を顔を見せる。でも、横顔しか見えない。
知らないのは当然だ。その時代に有った物でもないし、ましてや食べるなんて。
そんな事を考えながら焼く事に集中した。