第3章 初日終了
体中が痛い。今まで味わった事のない痛み。
ああ、俺、無様に負けてボロボロになったんだっけ…。でもあの女は、壊れる事を望んだっけ…。
とんでもない主の所に来たもんだ…。
いつの間にか寝ていたらしく、目を開ければ、意識を失う前に見た部屋の中にいた。部屋を見渡せば、誰もいない。俺だけがここにいた。
「あいつ、いないじゃん。」
起き上れば、体中を駆け巡っていた痛みが無くなっていた。体をよく見れば、奇妙な姿の敵から受けた切り傷が無くなっていた。
服も、真っ赤だったのが元に戻っていた。
(手当されてる…。)
ぼーっとしていれば、意識を失う前にした会話を思い出す。
『本当に、ごめんなさい。もう誰にも”壊れろ”なんて言わない。誰も、傷つけないようにするから…。』
最後、微かな震える声で言っていた。
この屋敷に戻って来るやいなや、あいつは自分が言った事に対して謝って来た。
本当は、壊れてしまえなんて言われて、悲しかった。今度の主は愛してくれるんじゃないかなんて思っていたのに。
確かに小さいと思ったし、口にした。まあ、若干馬鹿にした感じも含んでたけど…。
「手当の礼ぐらいは…。」
言った方がいいよな。あいつを探すために、部屋を出た。
何処にどの部屋があるのか、説明されてないから解らない。
(一つずつ見て行くしかないか。)
溜息をついて、まだよくは慣れていない身体を動かした。
物で刀であったのに今は、あの人と同じ身体を手に入れた。なんだか不思議で、変な感覚がする。
歩くのも、自分そのものの刀を握るも、誰かに触る事も。全てが俺にとって、可笑しなものだ。
(まあ、大きな敗因の一つかな?)
だから負けたのかも。何処か他人事のように考えてた。
まだ、少し疑念はある。手当してくれたのは嬉しかった。見捨てられてない、本当に死んで欲しいとは思っていないって解った。
でも、見せかけの嘘だって事もあり得る。信じ切ろうなんて思ってない。
(捨てようなんて思ってたりして…。)
自虐的な笑いが込み上がる。
そんな時だった。何処からか鼻歌らしきものが聞こえた。それになんだかいい匂い…。
釣られて言ってみれば、その場所にあいつがいた。
無造作になっている黒髪の背の小さい女の後ろ姿。
「いた…。」
入り口で、後姿を見ていると目が合った。