第9章 沖田総司の愛刀
顔が見れなくて、下を向いた。そんなウチの頭に影が差した。
「答えられぬのか…?何か、あったのか?」
心配そうに眉毛を八の字型に下げる、三日月さん。別に答えられない訳じゃない。だけど、喋るのは何故か出来なかった。
「俺はな、何故かここにいたのだ!しかもな、俺以外は誰もいない。人も、刀も、人っ子一人もおらんのだ!」
さも自分にはそんな事、痛くもないといった感じで平然と言う。自分以外居ないのに、明るい声で話す三日月さんに驚いて顔を上げた。
「だが、千隼が来てくれて一振りじゃなくなった。答えれない、答えたくはないのなら、答えなくてもよい。これも何かの縁だ、千隼がよければだが、少し話をしないか?」
ウチが見る限り建物もない、一面空の中に居る様な湖の中。ウチに手袋をした大きな手を向けてくる三日月さんの手を軽く触れる。
彼はそれを見てウチが承諾したと解釈して、「今日まで退屈だったのだ。」とにこやかに笑って握り返した。
★★★
山城国内の千隼の本丸。玄関から続く道の先に大きな門がある。そこに四つの人影があった。
「有難うございました。」
「いえいえ!朝一番に刀剣男士の方々が来たのは驚きましたが。」
堀川は頭を下げる。黒縁の眼鏡を掛けた白衣の男性と白色のズボンの看護師の制服、黒色のカーディガンを着た女性がにこやかな表情で堀川と和泉守を見た。
「傷は縫う程ではないので、血が止まって、傷が治れば大丈夫です。一応、痛み止めと止血剤は渡しておきます。」
「女の子に傷が残るのは、心苦しい事だからね。縫う事も傷が残る事もない程でよかったわ。」
和泉守は男性から、二つの薬が入った袋を受け取る。
「只ーー、」
「只?」
「急に動かしたとおっしゃっていたので、脳震盪を起こしている可能性はありますし、傷の程度でここまで長時間寝ているのは不思議で…。頭に異変が起こっているのかもしれませんので注意深く診ていてください。何かあったら電話して下されば診察に伺うので。」
名刺は薬の袋と一緒にあるので。その言葉を最後にして、二人は門を潜った。
「主さん、大事に至らなくてよかったね。ね、兼さん。」
「痛み止めなら、歳さんの石田散薬があるのにな…。」
「あれは…僕が言うのは何だけど、効果があるか疑いたくなっちゃうよ。」