第9章 沖田総司の愛刀
苦笑いを顔に出して、本丸内に一緒に戻るように促す堀川。
「お前、それでも歳さんの愛刀かよ!」
「兼さん…思い出してもみなよ、隊員の皆が『えっ…。』って顔していた事。それは石田散薬が効いて欲しいけど、時代が移るごとにそういう事も進化していくんだから。」
効きが良いのを服用しないと、清光はいつまで経ってもあのままだよ。和泉守を置いて、玄関を潜っていく。
「そうだな。両方ともあの状態でいられたら、困るからな…。」
溜息を一つ吐いて、堀川の背中を追って和泉守も玄関を潜った。
千隼が怪我をした翌日、街中の診療所へ足を運び、彼女を診察してもらった。医者が言う様に怪我はそこまで酷い物でもない。が、どうしてか意識が回復しない。
呼吸や脈が可笑しくはなってはいない為、様子を診て万が一の事があった場合は、連絡をする様にという事になった。
堀川と別れた和泉守は、千隼の部屋へと足を運んだ。閉じられている扉を開けると、背を向けて寝ている千隼の傍にいる見慣れた姿が目に入った。
その姿は開けられる音に気付いたのか、肩をビクつかせて顔を和泉守に向けた。
「主殿の目が覚める気配はあったか?」
彼女の傍にある姿ーー加州は黙って首を横に振った。すぐさま顔を千隼に目を移した。
「お前…凄い顔になってるぞ!目の下に隈だって…。」
「…知ってる。一睡も出来なかったから。」
加州の隣に腰を下ろし、胡坐を掻く。そんな和泉守の耳に微かに呟く声が聞こえた。
「『謝らないと、自分が悪いんだから。』…。」
「何か言ったか?」
内容は分からなかったが、何かを言った事は分かり、加州に聞き返した。加州が言ったのは単に、彼の独り言だった。
「なにもないよ。…考え事。」
何を考えていたのか、あらかた予想は出来ていた。和泉守は、「そうか。」と言うだけだった。
沈黙が包む空間に、少年独特の声が幾つか聞こえた。一つじゃない、複数の少年の声。どの声も和泉守を呼ぶ声だった。
「兼定、短刀達に呼ばれてるよ。」
「はあ?俺、何かしたか?」
「知らないよ…兼定じゃないし。」
言葉はいつものだが、声に勢いがない。相当参っているのか、もしくはどうでもいいのか。
また溜息を吐き、加州の頭を力いっぱいに撫でる。それに驚いたのか和泉守を見る。