第9章 沖田総司の愛刀
千隼の部屋の隅っこで、加州は体育座りして顔を両膝に埋めていた。
「町に医者が居ただろ?明日、診て貰う事にしよう。専門の者に診て貰う方が早く治るだろう。」
「でも、あるじさん、明日も学び舎でしょ?」
「この状態じゃ、無理だろう。」
「休んで貰うしかありませんね。」
廊下にいた刀達も中に入り、会話に入った。まだ誰もお風呂には入ってはいない。
「皆、湯浴みして来な。」
堀川は柔らかい笑顔を見せて、短刀達をお風呂へ促した。和泉守も堀川と一緒に後で入るらしい。加州は動く気配が全くしない。
短刀達は後ろ髪にひかれながら、千隼の部屋を後にした。
「…清光、話してもいい?」
堀川が体を加州へ向け、話しかけた。彼は顔を埋めたまま、微かに頷いていた。
「演練前のあれは、僕に言わせると清光が悪いよ。」
和泉守は体は千隼に向け、横目で堀川と加州を見ていた。加州からは反応は何も返ってこない。
「別に清光が嫌いだからこんな事言ってるんじゃないよ。僕から見て明らかに、悪いって思うよ。」
真剣な面持ちで彼を見ていれば、埋めていた顔を上げ堀川に目が向けられた。
「清光は何で、沖田君の名前言わなくなったの?彼はもう主じゃないから?でも、言ってる事と行動は反比例してる。」
本丸に来てから数日、堀川は加州が気になってずっと見ていた。主である千隼が学校へ行っている間、短刀達と一緒に遊んでいるのが目立った。
偶に冗談を言ったりして、まるで沖田総司みたいだと思った。彼女の前以外では。
「僕が歳さんの名前を言うのは、主として尊敬する人だった、僕にとって歳さんは僕の存在を証明してくれる人だから。だからーー、」
「俺だって!俺だって、沖田君の事は尊敬してるよ!!」
荒げた声で吐き出した。加州の目は潤んで、今にも泣きそうになっていた。
「尊敬してる癖して、故意に言わなくなったのにキレるのは筋違いだ。ただ、『そうだよ。』って言葉で終わるような事だろ?」
会話の中に今まで入らなかった和泉守は、腕を組みながら溜息を吐く。
「お前がそういう態度をとるのは解る。…他の刀より理解や柔軟性が高いだろお前。だから自分なりに向き合いたい。って思ってるんだろ?」