第9章 沖田総司の愛刀
「これで、大丈夫だと思います。」
布のお面で顔を隠したお姉さんが、打粉を手に持って負傷した皆を手入れしていく。
全員重傷なのに、どうしてそこまで力が続くの?泣きはらして真っ赤になった目で、お姉さんを凝視した。
ウチじゃ、皆を完全に手入れ出来る前に倒れる。
「全員、綺麗になって良かったね。」
「あ、……はい。」
手入れをしている皆と離れた場所にいたウチの隣に、大和守安定が歩み寄って来た。
ウチ等がいるのは演練場内にある手入れ部屋だった。ここへ案内してくれたのは、紛れもなく今、隣にいる浅葱色だった。
大和守安定と彼の仲間が、加州達を支えて手入れ部屋に連れて行ってくれた。ウチもその後に続いて彼等が治るのを待っていた。
「彼女等も政府直属の審神者なんだよ。」
突然始まる話に、顔を大和守安定に向ける。
「じゃあ、あの人達にも刀剣男士がいるんですか?」
「いや、いないよ。」
安定~!と、気が抜ける様な言い方で隣の刀剣の名を呼ぶ、変わった加州清光が現れた。
「そっちはどうだった?」
「圧勝!だったって。ついでに言うと、負けたとたん負け犬の遠吠え言ってたんだってー。」
「何それ、負け犬の遠吠え?」
「負け犬の遠吠え。」
ウチの事は忘れて、二振りで話が弾んでいる。凄く、居た堪れない。
何の話かは知らないけど、その事が大変面白いのか二振りして笑っていた。
「ああ、そうだった!話の続き!!ごめんね。」
「あ、いえ……。」
思い出してくれたのかウチの存在を、話を手入れを代わりにしてくれているお姉さんに戻した。
「彼女達は、手入れに特化してるんだよ。僕達の主は戦闘向きで、全員そりゃ手入れできなきゃいけないけどね。」
手入れに特化……。でも、それだけで刀剣を所持しないって、どういう事?
「演練って、沢山の本丸があるじゃん?その分、沢山、時間の許す限り手合わせが出来るんだよ。でもさ、一々負傷しちゃった刀剣を手入れして、また負傷して、手入れしてーーって、なんか効率が悪くない?」
「…はい。」
「それに審神者の力も有限だから、いざって時に使えないとなると、政府が困るから、演練での手入れ専用の審神者を配属したんだ。」
だから、彼女達には刀剣がいない。表情は読めなかったけど、声だけで悲しそうな感情を見せているのが解った。