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審神者と刀剣と桜

第8章 演練


 青年の刀が微かに揺れると、鈴の音が零れる。彼等の刀装も鈴の形状のモノなんだろう。
 小さい鈴の音の共に、新たに石が頭上に出てくる。

「まんば!抑えろ!!気持ちは分かるけど……。っていうか、それ、使っちゃ駄目じゃん!?」

 白い薄汚れた布を被った、その青年は”まんば”と仲間から呼ばれていた。そして、ウチの所の彼等と手合わせをしてくれた刀剣の内の一振りだった。
 お面の加州の言葉に、布の青年は頭上にある石を消した。言葉通り、この空間から溶ける様に消えた。

「別に、今は演練でも戦闘でもない。それにアイツの命令だ、こいつ等に向けて使ってはいないだろ?」
「いや、まあ、そうなんだけど……。そうなんだけどさ!」

 呆れた様にお面の向こう側で溜息を吐く。

「コレで物を壊したら、アイツが上に色々言われんだよ?怒り任せに投石なんてしたら、クレーターが出来るよ。お前だって何回も起こしてさ……。」
「お前が言うな。お前の方が本気でやれば、冗談じゃない事になるだろ。」

 それに、クレーターは出来ていない。お面の加州に視線を向かせる様に、石を投げた?らしき方向へ指を向ける。
 ウチの目ではどうなっているのか分からないけど、それを見た彼は「あ~あ~。」と言って項垂れた。

「クレーターは出来ていない。出来ていないけど、手摺りが凹んでるじゃん!?どうすんの?」
「クレーター”は”出来ていないだろ。」

 表情を一つも変えず、”は”を凄く強調して気にする事なく言いのけた。
 そこからか、お面の加州と布の青年の言い争いみたいなのが、始まった。

「なあ大将?何か……聞いちまったか?」

 言い争いに気が向けられて、気付くのが遅かった。比較的、自力で歩ける程の怪我を負った薬研がウチの近くにいた。
 薬研の口にした言葉の中には、何か嫌な事があった様なニュアンスが含まれていた。

「え、何が?」
「あ、いや、何でもない。」
「薬研、ごめんね。皆も、ほんとごめん。」

 何かを聞いてない。それが分かる十分な言葉を出せば、目に分かる様に薬研の顔に安堵が出来た。
 主じゃないって否定してるけど、他人から見ればウチも主だ。だから、主として、一人の自己中心的な人間として、今度は皆に向けて謝った。
 頭を下げて、目を地面に向けてると頭に違和感を感じた。撫でられている。そんな感覚が頭であった。
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