第8章 演練
★★★
始めから分かっていた。相手との差がどんだけあるのかは。
だって、こんのすけも言っていた。『政府直属の審神者。』最前線で戦う、戦闘特化の刀剣達とそれを指揮する審神者。
「でも、いい線いってると思うよ。そっちの”俺”。」
思わず目を見開いて見てしまった。ものの数分で加州達は膝を付いた。体中に傷が出来て赤い液体が、滴り落ちる。
「っーー。」
声にならない声が口から洩れる。
あまりの悲惨な光景に、思わず口を手で覆った。
「主君……。」
「あるじさん?」
隣で座っている前田君や乱が、心配して名前を呼んでくる。
折角、心配してくれているのにウチは返答しなかった。それよりも、体が何も考えずに動いた。
「主君!?」
皆、切り傷の痛みで顔を歪ませている。それに、相当体力を使ったらしく、肩で息をしている。呼吸が乱れていた。
「加州!」
加州以外は立ち上がる事も歩く事も出来ていた。現に、立ち上がって手が貸せそうなら、手を貸していた。
だけど、加州だけは膝を付いて、両腕をだらんと垂らして、そんな状態で動く気配が無かった。
「加州……。」
彼の正面に膝を付いて顔を覗き込む。覗き込んでも、そこが暗さを作っていて、顔がはっきりと見えなかった。
ウチの所為だ。だって、相手の強さもこうなる事も予想がついていた。なのに……なのにーー、
「あ~あ……悔しいな。」
目の奥が熱くなって、目から何かが零れてくる。鼻の奥がつーんと痛い。
そんな状態になっているウチの近くで、加州の口からボソッと零れた。付け加えて、嘲笑うかのように笑っていた。
「ごめん……、ごめん。」
辞退だって出来た。なのに、辞退せずに戦わせた。
ウチは戦闘はしない。戦場に立つのは、加州達”刀剣”。代わりに戦うのも刀剣達だ。そして、命を懸けるのも刀剣だ。
まだ救いがあるのは、死なない、疑似戦闘である事。他所の本丸との手合わせだ。それでも怪我をする。ここへ来た時、色々な怪我をした刀剣とすれ違った。
じゃあ、辞退しろよ。それを言われたら、どうしようもない。あのお面の加州清光の言葉や声が、ウチにとって逆らえない力を持っている様に思えた。逆らえないーー断れなかった。
「何で、お前が、謝る訳?」
息が切れて、途切れ途切れになりつつ、ウチの謝罪について加州が口を開いた。