第8章 演練
赤く塗られた手でお面を指さしながら、話す。
「君が今日の相手の審神者さん?初めまして、そして宜しく。」
差し出される手。コレは……握手をしようって事かな?その手に恐る恐る自分の手を伸ばす。
そして、優しく壊れ物の様に握られる。ごつごつした男の手。ありありとそれが分かった。
「今日、初めて演練に参加したんでしょ?主から聞いてるよ。こういう事態って絶対無いとは言い切れないけど、凄い低確率で起こるんだよね。」
「はあ……。」
「初めてだといきなり強い相手と組まされたら、やる気とか諸々、嫌になってくるかもね。でもさ、こういう経験って次、何時味わえるか分からないから、味わえる時に味わないとね。」
さあ、こっちだよ!お面を被った加州清光に背中を押されながら、何処かーー多分、この加州清光の主がいる場所だろうけど、連れていかれる。
「ちょっと待てよ!?まだ、こっちは承諾なんてしてない!」
「何?こっちの俺は、負けるって分かってるから戦いたくないの?それでも、あの人の刀なの?」
背中を押されているウチの背から、ウチの所の加州が相手の加州に声を大きくして、言い放った。
彼はお面の底で笑っているんだろう。声が、鼻で笑っている感じだった。
挑発かな?アイツなら、そんなのに引っかかる程の短気な奴じゃないし……。
「そうじゃねーよ……!やってやらー!!」
フラグをウチは立てていたらしい。たったそれだけで、アイツは挑発に乗っかっていた。
★★★
ウチ等が着いた場所は、通常の審神者達が居る様なフィールドとはまた違ったフィールドだった。
「皆~!お待たせ。連れて来たよ!」
お面の加州がぶんぶん勢いよく手を振る向こうには、沢山(と言っても、五人位)人がいた。声で気が付いたのか、頭をくっつけて話をしていた集団の顔がこちらを向いた。
「清光、おっそいよ!何処寄り道してたの?」
「元の時間よりはだいぶ過ぎてるし、別に良いじゃん?ゆっくりで。この時間のお相手は、初めての演練なんだし。」
ねえー。同意を求めるかのように、表情の変わらないお面がウチを覗き込んでくる。
「お前は……。って、あれ?君達ってーー、」
相手の加州を怒る声は、つい数十分前にも聞いた声。相手はその事を覚えていたのか、驚きの声を上げた。
それは、ウチがぶつかった他所の大和守安定だった。
