第8章 演練
★★★
「ーーですから、直前で”上”から相手を変えるように、申し付かったのです!」
「相手を変える事は構いませんが、何故……何故!その相手が政府直属の方なのですか!?」
本来なら、振り分けられた場所にいるはずのウチ等は、演練の勝敗についてや相手についてのデーターベースの中枢にいた。
駆け足で行った際、正しくはウチがいないといけない所に、他の人達がいた。相手はウチ等が手合わせする相手。
『相手は貴方じゃなくて、私達になったんですが……。』
嘘だと思った。本来、相手となる人・ウチの代わりとなる人にもう一度確認を取ると、何度も確認をしてくるから諄いと思ったのか、苛立った様に言い放った。
『だったら、直接聞いて来いよ!!』
その言い方に、割と短気な刀なのか和泉守さんが切れかかって、他本丸の審神者に対して、抜刀しようとした。
何とか止めつつ、ウチもその言い方に頭にきながら、冒頭の政府の役人の元へ行き、それからこの会話となった。
「私達も何度も話しました。『これは、政府が定めた規定から外れた行為では?』と。」
結果、役人さんの言葉に上のお偉い様は何も返答をせず、通信を切られたらしい。
じゃあ、どうすんの?
本来はありえないという、この状況に戸惑わない訳がなかった。寧ろ、今、頭の中が真っ白だ。
「……このまま、やらないのも相手に悪いよね。本来は政府直属の審神者さんと演錬を行うはずだった人に、申し訳ないよ。」
「ですが、岩動様!?」
「挑んでみたら。」
どうするか、黙って考えていたら静まったこの空間に足音と声が響いていた。その足音はこちらに来ている。
「お相手になる本丸さんが全然来ないんで、主に言われて迎えに来ました。」
ウチや隣にいる加州達の前で止まったのか、足音ーー正確にはヒールの音が止んだ。
音と声をする方を向けば、片手に赤い鞘の刀を持った黒い狐のお面を身に着けた青年が立っていた。
「加州……清光!?」
姿や着ている洋服、ヒールのあるブーツ、手に持った刀、そして、聞きなれたテノールの声、これ等で彼が”加州清光”だと認識出来た。
でも、一番解るはずの顔はお面で隠れていて、彼が本当なのか半信半疑だ。
「あ、お面は気にしないで!コレは俺にとっての一種のオシャレだから。」