第8章 演練
痛い……。今、何かにぶつかったウチの視界には水色しか見えていない。
「君、大丈夫?」
女性にしては低め、でも男性にしては高めの人の声が頭上から聞こえて額を擦りながら顔を上げた。
それは、ウチのスマホの画像フォルダーにもある、浅葱色のだんだら羽織を着た青年だった。
「大和守……安定。」
「何している、安定。」
何処かの本丸の”大和守安定”にぶつかってたらしい。彼の微かに見える手首には、ウチが付けているのとは似ているけど異なるブレスレットが見えた。
彼の主であろう青年と、刀剣男士らしき人達の大群がこっちへ来た。
「うん?ちょっとね。」
「あ、……すみません。」
ウチよりも背のある目の前の彼の主と、ぶつかってしまった相手に対して謝罪をした。
相手は気にもしてない。
「よかった。僕は大丈夫だから、気にしないで。」
寧ろ、こっちを気にしてくれていた。相手が睨んできただけで喧嘩を売ってくるような人でなくて良かった。
彼の主もそれだけの掛け合いで、全てを把握して、謝罪してきた。
「こっちも悪かった。」
「周りを気にしろよ!?この、阿保!!」
向き合っていたウチの後頭部に衝撃が走る。ぶつかった時よりも痛いそれに、後ろを振り向くと加州がいた。いつものすまし顔が崩れて、相手を睨んでいる様に見えた。
いや、ウチを睨んでますわ。
「主を叩くって、加州清光らしくない”加州清光”だね。」
「……本当に、いた。」
眉間に皺を寄せて、大和守安定を見た。最近知った、主が”沖田総司”であるこの二振りが、対峙するのを見るのはこれが初めてだ。
あのまま知らないままなら、加州がこんなに動揺するのを見ても理由が分からなかっただろう。
「僕達の所とは別のお前が、≪人間の姿をした大和守安定(僕)≫を見るのは初めてだよね。僕は何回もお前を見てるから慣れているけど。」
「そうだね。俺の所にはお前がいないから。」
知り合いなのに、何処か余所余所しい。あれかな?ウチの本丸でないからかな。
加州が相手を見ているのを横目で見てから、大和守安定の主を見た。
アシンメトリーな黒髪に、釣り目の黒目。その両目の下にはウチと同じ所にそれぞれ泣き黒子がある、顔の整った青年だった。
背丈はウチから見て、結構高い。
「安定、次があるから早く行くぞ。アイツ等も待ってる。」