第8章 演練
いや、気付くの遅くなったけど、どうしてトイレに行ってただけで迷子になった?何で、校舎の中にあるトイレに行ってたのに、君は外にいる。
インカムを忘れた事に対して謝罪しながら、加州の状況に疑問を感じた。
「終わったんなら、帰ろ。」
「ちょ、待って!」
ウチに背を向けた加州の背に、少し大きめの声で加州を呼び止めた。呼び止められた事が勘に触ったのか、凄く嫌な顔をしてこっちを見てきた。
「何?」
「何で、トイレに行ってたのに、校舎の外にいるの?君、意外と物覚えが良いから学食付近のトイレから、ウチのいる教室まで戻ってこれるよね?」
聞いてもいいのかどうなのか分からなかったけど、疑問に思ってしまったから、聞いてみる事にした。
正直に答えてくれるといいけど……。
彼は、一瞬、虚を突かれた様な顔をしたと思えば、罰が悪そうな顔をした。
「答えたくないなら、良いけど。」
「……気分が悪かった。」
ウチから視線を結構ずらした加州は、ウチに聞こえる位の声の大きさでそう言った。
「気分が悪かったってーー、」
「だから、厠に行くって言ったけど、気分が良くなる所に行こうと思って、まだ、覚えてない所に行った。……迷子になったよ!何か、文句あっか!」
言われてみれば、あの時の加州の顔は色が悪そうだったけど……。っていうか、逆ギレされたんですけど!?
「知らねーよ!!逆ギレ出来る程、元気があるなら別に良いけど……。人酔いでもした?悪くなったんなら、言ってくれればどうにかしたのにさ。」
ウチが思うには、気分が悪くなる要因は食堂にはなかったと思うけど。人が沢山いる事以外では。
原因はそれしかないと思う。でも、その前に、夢でこの刀魘されていたよね。関係でもあるのかな。
「言ったから、早く、帰るぞ。」
加州の周りを包む空気が、重くなった様な気がしないでもない様な気がする。ウチが付いて来ているとか来ていないとか、関係なく加州は足早に進んでいく。
その後をリュックを背負い直しながら駆け足で後を追った。
★★★
いつもより遅い帰宅になったけど、玄関の扉を開きながら「ただいまー。」と言って潜った。
「あれ?」
見慣れない靴ーーというより、草履があった。明らかに、小夜よりも大きいサイズの草履。誰か来ているのだろう。