第2章 加州清光
目を静かに開ける。開けっ放しの庭から差し込む太陽の光が痛い。眩しくて開けても、細めてしまう。
ぼやけてたけど、君が見えたよ。だから--、
「起きて。」
一言だけ聞こえるか、聞こえないか位の声量で呟く。辺りは鳥のさえずりや、風の音以外聞こえない。
ウチの声に応えてくれたのかそうじゃないのか、刀が輝き始める。
「始まりましたね。成功です!」
と、こんのすけが嬉しそうに言う。成功。目を閉じて、姿を探して、一言言っただけ。
(こんなんでいいのか…?)
実に簡単、でもアバウトすぎる作業に困惑する。これで姿を与えられてなかったら、意味なんてない。
「大丈夫ですよ。だってほら、」
桜が出ています。心配しているのが解ったのか、励ましてくれる。
確かに、刀から桜が出ている。しかも、どんどん輝きも増しているような…。
「もうすぐ、姿がお見えになられます。桜の花弁が出てくるのは、合図です。基本的に、付喪神にするのに失敗はありません。ただ--、」
そこで言葉が区切られる。
理由は、目の前に突然人が現れたから。刀が置いてあった場所に。
「現れましたか。おめでとう御座います。」
と、こんのすけは言うがそんなの耳に入って来ない。
急にいないはずの人間が現れて、驚かない人なんていないよ!しかも土足、ピンのブーツ。
一昔の和が入った洋服を着た男。多分ウチと同い年か、少し年上か、その位の年齢の人。
(綺麗な顔の人…。)
あまりの整い過ぎている顔やスタイルに、呆気に取られもう見上げている事しか出来ない。
細すぎない、赤色の猫目。一瞬目が合った後、彼は辺りを見渡し始める。
(多分彼が--、)
あの刀だ。確証するのは実に簡単だった。
彼の赤いマニキュアがされた手には、ウチが今まで持っていた刀を持っている。それに、直観的に彼がそんなんだと思った。
「あの!」
未だにキョロキョロしている人に、勇気を振り絞り話しかける。しっかりと、立ち上った。
「貴方が、”加州清光”…さんですよね。」
目の前の人はウチが話しているのが解ったのか、こちらに目を向けてくれる。
(大丈夫。大丈夫。)
落ち着かせながら、上ずらないように、言葉を紡ぐ。こんなに緊張したのは入試の面接以来だ…。
「初めまして。岩動千隼と言います。」