第8章 演練
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加州が食堂から出て行った後、食堂にいる千隼達はーー。
「アイツ…お弁当を仕舞ってからトイレ行きなよ!」
溜息交じりに、蓋が閉まっているお弁当箱を専用のバックに仕舞っていた。
呆れた様に言っていたが、千隼にはなんとなくだが、加州の出ていく時の表情を気にしていた。
(凄く、眉間に皺が寄ってた。そんなに我慢してたの?)
だが、何とも的外れな事を思っていた。苦しかったのは合っているが違う、そうじゃない。
仕舞い終った千隼に橘高は話し掛ける。
「そろそろ時間になるから、ボク達は行くよ。じゃあ、またね。」
微笑みを顔に浮かべ、橘高と彼の刀剣はその場を離れた。それを見ていた天音は食堂内の時計を見て、千隼に言った。
「後、数分だよ。」
「あ、本当だ……。どうしよ、加州がトイレ行ってるよ。」
そう。彼女の初期刀は、トイレに行っている事になっている。トイレから出てくるのを待つ事は出来るが、それでは次の時間に間に合わない。
「大丈夫だよ。食堂を見て、あたし等がいない事が分かったら、教室に来るって。」
「……だよね。アイツならそうするよね。」
本当は先に教室に行っている事を伝えたいが、伝える為の手段がない。千隼達が持っている様な携帯やスマホ等はまだ、彼等は持っていない。
インカムも今日に限って、本丸だ。千隼は結構な確率で携帯を携帯しない事がよくある。スマホに変えてからも多少はあったものの、ガラケーよりは無くなった。
待ちたい気持ちを抱えつつ、後ろ髪を引かれながら食堂を後にした。しっかりと彼の持ち物も持って。
★★★
「ねえ、長谷部。ボク、聞いてないよ。」
歩いていた足を止め、橘高は後ろに居る彼女と初めて会った時に居た男に顔を向ける。
「……。」
「何で、”加州清光”が”岩動千隼”ともう同行してるの?何で?」
橘高はさっきまで見せていた柔和な顔を何処かへ投げ捨てたのか、今、彼の顔は不愉快極まりないと言いたげな形相で、相手に詰め寄る。
「”どの彼女”でも、同行するのは短刀の誰かだよね。何で、打刀の加州清光が一緒にいるの?」
目と鼻の先にいるのに、青年は顔色を一つも変えずに、黙っている。
それに呆れたのか、「もういい。」と言って離れた。