第8章 演練
「あ、私が作ったんじゃなくて、堀川君っていう刀(こ)がーー、」
「ああ…土方歳三が愛刀とした脇差の。君の所の堀川君、凄いね。って、言ってもお弁当箱の中身無いから、どんなものなのか分からないけど。」
相手は笑顔でアイツに話しかける。横目でアイツを見ると、些細な変化だけど、笑顔が固まっていた。
アイツの友人である高塚さんや彼女の刀剣には、俺や本丸にいる皆に見せる自然な笑顔を見せるのに。
国広特製のお弁当を食べてあの夢を忘れていたのに…。思いがけないあの夢の男と瓜二つの男の所為なのか、夢を思い出したのか、何かを口から出したい衝動に駆られた。
コレ…吐き気だ。あの人が口から血を吐いたように。でも、絶対別だ。胃の中を全て出したい。
「ごめん、俺、厠に行ってくる。」
だんだんとここに居るのが嫌になってきて、俺は席を外した。
食堂を出て、アイツには厠に行くって言ったけど、一人になれる場所に何も考えずに足を運んだ。
「ここって…まだ、校舎の中?」
いつの間にか、まだ覚えきれてない学校の何処かにいた。
建物があって、花壇があって、だけど人が全くいない人気のない所。意外と陽が当たって、暖かい。
早く、あの場所から離れたい一心で走った俺は、その場所に設置されている長椅子に座った。
心臓が凄く音を立てている。息も途切れ途切れだ…。
「いつの間にか……胸焼けしてた感じが……気持ち悪さが、無くなってる。」
息を吸い込むと同時位に、独り言を呟いてみる。
本当に、気持ち悪さが何処か行った。今は疲れた、それだけだ。
どうして、気持ち悪さが無くなったんだ?…走ったから?違う。人が沢山いないから?別にそれに対してはどうも思ってない。
「…あの男から離れたから?」
段々、正常な呼吸に戻ってくる。背中より後ろに両手をそれぞれ付いて、空を見上げる。
…そういえば、お弁当とかそのままに、したままだ。ここが学校の何処か分からない今、下手に動けばもっと分からなくなるな。
アイツがここに来てくれるまで、ここで待つか。アイツなら来るだろうし。
何も考えていなかったから、今になって色々とやらかした事に気が付いた。でも、過ぎてしまった事はどうしようもないから、ここで時間を潰す事にした。
遠くから授業の開始であろう鐘が鳴る。