第8章 演練
「ちはやんはもう、”演練”って始めた?」
「”演練”?」
ウチが食べ始めて少しした時、天音の口からあまり聞き覚えの無い単語が出て来た。
「他の本丸の刀剣男士達と自分の所の刀剣男士達で、大規模な手合わせをするんだけど。」
「まだ…だね。こんのすけからは話は聞いてる。」
つい二、三日前にこんのすけが本丸に来た。進行具合の確認と新たな話をする為に来たらしい。
その新しい話とやらに”演練”についての話があった。皆が慣れ始めているのは分かっているけど、まだ、参加するのを躊躇っていた。
他の本丸の男士達を見る事や、その本丸の審神者の戦い方とか学べれるんだろう。本当は他の人に会うのが面倒というか、嫌というか。
彼等を建前にしていたけど、実際は人が多くいる、人の目が多くある所へ行くのが、嫌なんだ。
「早めに参加し始めた方が良いよ。助言として、皆さん、めちゃくちゃ強いよ。」
だから、発展途上の今からの方が良いよ。と言って、残りわずかなおかずを口に入れる。
「確かに、その方が多く分かるしね。」
演練の事はもう少し考えよう。ウチの気持ちが乗り気になるんなら、皆に話してどうするか考えられるし。
考えながら、堀川君特製のおかずを次々と口に運んでいく。若干、周りの声を聞き流している時、聞き覚えのある声が耳を掠めた。
「あれ?千隼ちゃん。お久し振り。」
最後のおかずを口にいれた瞬間、通路側にいるウチの目の端に人が止まった。それはーー、
「どうも、橘高さん。」
そこにはにこやかな笑顔を浮かべた橘高さんが立っていた。彼の少し後ろには見慣れない青年が立っていた。手には刀を持っている。
彼の手には黒色の長財布が握られていた。
「お弁当なんだね。凄いね。」
橘高さんはウチのお昼がお弁当だからか、それをウチが作ったと勘違いしているらしい。
違う、ウチじゃない。ウチのだったら、冷凍食品だらけのお弁当になってるよ。
「あ、私が作ったんじゃなくて、堀川君っていう刀(こ)がーー、」
「ああ…土方歳三が愛刀とした脇差の。君の所の堀川君、凄いね。って、言ってもお弁当箱の中身無いから、どんなものなのか分からないけど。」
すっからかんとなったウチのお弁当を見て、苦笑する。確かに、その通りだ。