第8章 演練
「ーー違う…俺じゃない……俺じゃない!!!」
うおおおお!耳が!耳がああああ!!
抱きしめられているが故に、加州の口がウチの耳の近くにある。数秒前に唸り声らしき声が耳を擽っていた。
それなのにその数秒後、急に寝言を言い始めたかと思いきや、大音量の寝言で鼓膜が破れそうになった。
耳を塞げれたら良いのに、腕まで一緒にホールド状態だから塞ぐ事もできない。
「うっせんだよ!早く、起きろよ馬鹿!!」
手段なんて選んでいられない。そんな思いになったウチの行動はーー加州に頭突きをくらわす事だった。
頭突きなんて何時ぶりだ。確か…数年前に末っ子の弟二号にくらわして以来だ。
凄く鈍い、痛い音が聞こえると、ウチの頭に痛みが広がる。痛い…本当にマジで痛い……。
向こうも痛みがあったのか、魘されていた時とは別の顔の歪みを見せた。その後、小さい声で「いった。」と痛みを訴えた。
「…何で……お前…。」
「こっちの台詞じゃ!起きたんなら、起きたんなら!腕を解け!!」
無事、ウチの頭突きのお陰で起きた加州は、寝起きの為この状況が掴めていない。
焦点の合っていなさそうな赤い目が、ウチを見つめてくる。何この距離。目と鼻の先だし、何か、何か…。
背中に回せしていた加州の腕が離れるのが分かって、勢いよく加州の胸を押した。力とか入っていなかったのか、窓の枠に頭をぶつけていた。
「いった!おま、何するんだよ!?」
「自業自得じゃ、起きたんなら早く立ってよ!天音が待ってる!!」
一秒でも早く、この場から離れたかった。加州が付いて来てるとか、どうでもいい。足早に、教室を出た。
頭は痛い。それに…顔が熱い。