第8章 演練
阻んでいるのはアイツを蹴り飛ばした張本人だった。殺気を含んだ目でそいつを見れば、見た目に反した力が俺の肩に掛かる。
「こうなる事を君は望んだ。だから、抜刀してるじゃん!ねえ、止め刺さないの?」
右肩を掴んでいる男の手が俺を男と目が合う様に、体を方向転換させた。
目線はヒールの付いたブーツを履いている俺よりも少し上。男は見下す様に俺を見てくる。
「ほら~しっかりと本体を握って。」
刃がもろに出ている刀を握っている右手を男の手が包む。そこから痛いほどの力が籠められる。
その拘束から逃れる為に身じろぎするが、離れてくれる気配が無い。コイツ…なんて馬鹿力なんだよ…。
「大丈夫!だってーー、」
ーー何があってもまた、会うんだし…。
耳元に男の顔が近づき、耳打ちする。それが嫌に俺の耳に木霊する。離れた顔を見れば、笑っていた。口元だけ、目は笑っていない。
「ねえ、加州ーー、」
★★★
起きるのを待っていたウチのスマホに、一通のラインが入った。
【席確保!窓際の端の席】
どの窓際なのか、実際、行かないと分かんない。取り合えず、【了解!】と返信しといた。
ラインのアプリを閉じると、さっきまで開いていたブラウザが画面に出る。
検索のワードには【加州清光】と入れ、検索を実行した。その結果は、ウチの予想の斜め上が出て来た。
「君も、あの人のーー”沖田総司”の”愛刀”なのね…。」
検索結果には、若き天才剣士・沖田総司だったり、沖田総司の愛刀ーー加州清光についてだったり、兎に角、そんな結果が多かった。
偶に、模造刀の通販ショッピングがあったりしてたけど。
確かに、沖田さんの愛刀を出来るんなら仲間にしたいとは、思っていたよ。…でもさ、まさかそんな事も知らずに一番初めの段階で選んだなんて…。
「ヤバい、天音に話そう。…天音は加州については知ってそうだけど。」
彼の主の正体が、意外とあっさり判明したが、どうする?この刀はまだ、ウチが主を知らないと思っているし。今、調べたからね。
正直に話そう。アイツは意外と正直に話すと、しっかりと答えてくれる。
『俺は、一度捨てられた。』
『戦って、相手の刃を受けて、相手の肉を切って、しっかりと”あの人”の為に仕えていたつもりなのにーー、』