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審神者と刀剣と桜

第8章 演練


 俺以外に誰かいるの?形は人型、座っている様な感じだ。
 薄く広がった赤い水面を音を立てながら歩く。ぼんやりとした影が何かを見る為に近づく。

「誰?そこに居るの。」

 暗かったのは夜だったから。何故そんな事が分かったのかって?

「…なんで……。」

 縁側の開いた襖から光が射し込む。周りに光源らしき物は無かったから、月明かりなのかもと思考を巡らせた。だから、暗いのは単に部屋の明かりが無いだけじゃなくて、夜だって事に気が付いた。
 その明かりが影を覆い、姿をはっきりさせる。映りあがったそれはーー、

「千隼…?」

 血だらけでぐったりと力なく壁に寄り掛かって座っている”アイツ”の姿だった。
 何があった?何で血だらけ?疑問が一気に頭を駆け巡る。でも、誰もそんな問いに答えてくれる奴なんていない。
 アイツの下も赤い水溜りが出来ている。汚れるのなんてお構いなしに、近づいてしゃがむ。
 首に刃物で切られた様な傷口があって、まだ出来て時間が経っていない様に思えた。
 何度かアイツの名前を口に出して、肩を揺する。でも、何も反応が返ってこない。

「誰がーー。」
「君だよ。」

 見知らぬ声が聞こえた。誰の物でもない、低い男の声。それは俺の背後からした。
 振り向いて声の主を見れば、そこにはふわふわの栗色の髪に垂れ目の線の細い男が立っていた。
 誰?
 手に持っていた本体に力が入る。その栗色の髪の男は目と口に三日月を描きながら笑っていた。

「だ・か・ら、このキモくてウザい女を手に掛けたのは、君だよ?近侍の加州清光君。」

 男は俺の横を通り過ぎるとアイツの前で足を止めた。次の瞬間、右足を振り上げた。
 その足は、意識の無い千隼目掛けて振り下ろされた。しかも容赦がない。もしかしたら、まだアイツの心臓は微かに動いているのかもしれない、息をしているのかもしれない、のに…。
「何…やってんだよ!!」

 アイツの体は蹴られた衝撃で、寄りかかっていた部屋を隔てる襖事、飛ばされた。
 始めは何をやっているのか茫然としていて、理解出来た瞬間、アイツの元へ行こうと体が動いた。
 千隼…!
 右足が一歩前に出そうとした時、行こうとし方向と反対に力が働いて、アイツの元へと行くのを阻んだ。

「離せ…!」
「あはは~怖い怖い~。」
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